無線電信の巧みと技

William G.Pierpont N0HFF

-改訂2版-

第1章

効果的にどう進めるか

 

 目次     第2章
 

この章は学習に際しての準備についてのまとめです。

モールス符号を学習することは新たな生活習慣を獲得することです。それはテニス、速記、タイプ、楽器演奏などを習うことと同様の原理で総括できる技能の一つです。規則正しく一貫した、繰り返しの具体的な「練習」こそ我々がやるべき方法です。

従来ある人は何の助けも受けずモールス符号をマスターすることができました。またある人は良くない方法を用いました。しかし両者ともしばしばいわゆるプラトー(高原)にぶちあたり熟達半ばにしてあきらめていました。

現在は、成功がほぼ約束された方法があり、その方法を用いたいくつもの素晴らしい習得コースが存在します。

原理は以下に概要を述べている通り、歩み始めた初心者を達人にまで育成するものです。もしあなたが壁にぶち当たった当人であれば、これから紹介する方法を用いて軌道修正してください。これから紹介するのは最も早く電信符号を習得することに成功しそれを本当にマスターするための方法です。

覚悟すること-

素直な「心構え」、そして「何」をするのか、「どのように」するのかを知っていること。これが成功と失敗の分かれ目です。

1) 学習に対するあなたの「心構え」は決定的に重要です:それは成功のための必須の「準備」といえます。

コメント: 何事も「難しい」と思えばそれが障害を作り出し我々を意気消沈させる傾向があります。-

大概の人は初期段階での競争は学習の妨げになることに気がつきます。- 実際の符号の読み取り・書き取りにおいて、「全てを間違い無く取ろう」とか、何が受信できるのか過度に関心を抱くとか、次に何が来るのか予想しようと試みるとか、といったことに関するいかなる懸念も過度の心配も 次に続く部分を取り落とす原因になってしまいます。- 物事を上手にこなす人はそれと取っ組み合いをしたりしません。-「リラックスして受け入れること」です。
 

2)「聞く事」で符号に対する第一印象を得ること - 耳で - すなわち実際に用いる方法で
印刷された符号表や、いかなる巷でお勧めのトリッキーな記憶法も捨て去ることです。 それらは必ずあなたの習得を遅らせる原因となり、あなたが先に進もうとするのをためらわせる事さえあります。

コメント:

符号を目や心理的な絵(視覚)で覚えることがあなたの上達を遅らせる理由は視覚による記憶と聴覚(聴取)による記憶が全く別物でありお互いに関連性がないからです。符号一覧表や「合調法」は聞き取りを遅くします。なぜなら符号が耳に入るたびに1またはそれ以上の不必要な手順を踏むことになるからです。いずれの場合も精神は各々の信号に対して意識的分析あるいは翻訳作業の過程を経ることになります。4章13章参照。
 

3)学習の極初期段階から各々の符号を一つの「音声単位」、一つのパターン、リズムとして聞くこと


最初から、各文字は充分早く送るべきです、一つの文字が一つの単位に聞こえるように毎分18字から25字あるいはもっと早くするのが望ましい、但しこのとき各文字の前後に十分なスペースをいれることです。 間違っても、決して符号をバラバラにして分析しようとしてはなりません。(長点、短点に分解してはいけない)これは一番大切なことです。
 

4)符号は文字


例えば、いま「トツー」と聞こえたら即座に「A」と認識すること あなたは文字「A」を「聞いている」ということ。 符号信号から文字を瞬時に連想して符号を聞くあるいは考えると同時に文字が頭に浮かぶようにする。精神的な「イコール」とは下記のように即座ということです:

「トツー」=「A」
そして「A」=「トツー」

瞬間認識こそ我々が努力して目指しているものです。

以上4つの原則は絶対的に本質的な基本です。

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5)一つのことに集中する


例えば、符号のコピー練習をしているときにブロック体で書き取るのとタイプで打つのと両方覚えようとしないこと。
 

6)符号を正確に受信することを習得する - 最初の目標
受信の際、各文字/語を正確に認識できる前に各文字/語が完全に送信完了するまで待たなければなりません。 各文字の送信が終わるや否や即座にそして正確に認識できるようになるために忍耐力と受け入れる心がまえが必要でです。
 

7)正しく送信された符号だけを聞くこと


正しい符号構成 - タイミング - は効果的学習に必須です。
適切な文字と語の間隔は符号自身の正しい構成と同等に重要です。 そしてこれはスピードが増すにつれより重要度を増します。最初はカセットテープ、コンピュータあるいはキーボードが発生する符号を聞くのがベストです。もし指導者がいればそのアドバイスに従うことです。

不完全に送信された符号を聞くと符号が何であるか考えることに集中してしまい不必要に気を逸らされる。

(熟達すればそのような符号も読み取れるようになりますが)従って、学習の初期段階では気を逸らすあらゆる雑音、、空電や混信を避けることです。

送信は(受信学習で)良いタイミングの間隔を得とくしたあとなら比較的容易です。送信の場合次に何が来るか前もって知っているのですから容易なのはなおさらです。しかしながら、自分の送信をあまりに早い段階で聞く事は学習を妨げる恐れがあります。なぜなら未だ送信符号が充分正確ではないからです。
 

8)規則正い毎日の練習時間を計画しよう


生徒(学習者)は「いつ」「なに」をしようとしているか正確に知る必要があります。練習時間は疲労、退屈、落胆など感じないように充分に短くすることです。会得したことが体にしみ込む様に十分な間隔をおいて練習することです。練習とは習慣を積み重ねること:正しいことだけを練習しましょう。

誰しも浮き沈みがあります。 調子の良い時、悪いときがあります - これは通常良くあることなのでそれによって落胆しないでください。 (疲れ果てていたり、病気であったり、ふさぎ込んでいたり)調子の「悪い」時には思い切って練習をしばらくやめてしまった方が良いでしょう。練習を楽しみの材料にしてしまうことです -  変化と内容に興味を持って。
 

9)聞き取り

(listening)と書き取り(copying)
もしあなたが一人で学習しているなら、何も書き取らず単に聞き取ることから始めることです。(前述 2項参照)信号を聞きいて、即座に聞いた文字あるいは数字を口に出して言うこと。全ての文字と数字に慣れたらあなたは符号を認識することに何かしら心地良さを感じるでしょう、そうしたら符号を聞いて認識するなり即座に文字や数字を書き留める練習をするのです。(それを「書き取り」"copying"と呼ぶ) 7章8章参照。

始め出す最良の方法は先生(教える人)によって異なります。あなたの先生あるいは訓練コースは聞き取った文字を書き取らせることから始めるかもしれません。この方法でも文字や数字で音を連想する助けになります。遅かれ早かれ両方できるようになりたくなります。

いずれにしても、技能が向上してくれば書き取りを覚えることが必要になってきます。最初それは一文字一文字だが、技能が増すにつれそれでは遅すぎることがわかります。-

さらに前進するために、遅れて書き取ることを覚える必要があります。:即ち、何が送信されているか聞きながら、先に聞き取ったことを書き留めるのです。これはたとえ高速であっても一音節か二音節あるいは一語か二語遅れまでであることが必要です。- これによってプレッシャーがなくなります。 この技能は多くの場合符号を練習し使っているうちにほとんど自動的に備わるようですが、我々のほとんどは助けが必要です。参考になるいくつかの練習法があります。 8章参照。

全てを書き下すことから始めたハムは、ペンが離せなくなり、まず書き留めないと何も理解できないことになる場合があるようです。これでは話をするにはあまりにぎこちない方法ではないですか!「ペンを捨て去ること」というのは良いアドバイスです。そうすることで聞くだけで(書き留めないで)受信することを覚えざるをえなくなります。(私は60年以上ペンなしでは受信ができなかったハムを知っています。 彼はほとんど盲目になったとき、それを実行しなくてはならなくなり

やってのけました。しかも非常に短期間で!) 我々は両方の方法を学ぶ必要があります 書き取ることと聞き取ること。 いくつか単語を取り落としてもそれがどうしたというんでしょう?- それでも内容の要旨をつかむことはできます。  覚えておいてください - たとえ最高のオペレーターであってもたまには一語や二語ミスをすることがあることを。
 

10)正しい練習方法によってスピードは向上する


スピードの上達は先ずは文字、次に語、そして最後に 話 や 考え といった大き目の単位のものをいかにほとんど瞬間的に認識するかにかかっています。 受信速度を早くするためには自分自身をけしかけなければならなりません。 単発的なスピード練習がベストです-たとえ一回一分間、たまに3から5分でもよい。 もしスピードを上げたければ、全部受信できるスピードよりもさらに早い符号を聞く事です。 そして認識できた単語をすべて挙げてください。 コピー練習の少なくとも一部分はちょっと早すぎるほどのスピードにします。 どれだけ早く受信できるようになりたいかは、あなた次第です。 あなた自身の目標を決めましょう。

だだし、覚えておいていただきたいのは、目標としているのは意思の疎通であって、速さのための単なるXs[hではないことです。
 

11)文字、数字などをマスターしてから文字の単なるつながりではなく単語を単語として聞き取ることを習得することで技能を深めます


これがモールス符号マスターの第二段階です。 ほとんどの人はたとえまだアルファベットをマスターしている最中でも "of" "the"などの短い単語を知らず知らず認識していることに気が付きます。  私たちはこれを少なくとも頻繁に使う単語にまで広げる必要があります。 受け送りを単語として音の単位、認識の単位となるまで聞き取り、練習することを慎重に始めましょう。

我々が選んだ「もっとも一般的な100語」は手始めとして良い例でしょう。(

4章の最後参照) それらを聞き取り、送信する練習を何度も何度も繰り返しましょう、あたかもそれを読み書きしているように単語を思い浮かべると自然に流れるようになるまで練習しましょう。 上にあげた一般単語100を練習することは他の多くの単語も単語として脳ミソに覚えさせる助けにもなるようです。 我々はこの技能をいくつかの、pro-, per-, com-, -ing, -tionといった接頭語や接尾後を練習することでさらに伸ばすことが出来ます。 一単位として認識できる音の単位が大きくなればなるほど、受信と送信が容易になります。

この種の、スペーシングとタイミングに注意を払う練習は一部のハムが陥る、短い語を一つの複雑な文字のように送ったり、語間のスペースを忘れるといった、だらしのない習慣を防ぐことになります。 このような習慣はスピードが増すにつれ読み取りと書き取りを大変困難にし、ほとんど不可能なまでしてしまいます。
 

12)さらなる習得は本当の上達への秘訣


自由に簡単にモールス符号を送り受けすることができたとき、仮想的に符号を全く意識することなく語り、読み、書くことを達成できます。 あるOTは他のハムがどういう単語を使ったか聞かれたとき実際の単語は覚えていないと答えました - 彼は心の中で思考として捕らえ、正確な単語としては覚えていなかったからです。それが達人のしるしです。

言語学では外国語をいかにうまくなるか次のように教わります。「繰り返すこと」、同じ文章を繰り返し繰り返し言うこと、自動的に口に出るまで変化を加えたり加えなかったりしながら繰り返し言うことです。その域に達すれば、最高速度は問題ではありません、我々は符号のマスターを成し遂げたのですから。それは十分努力にあたいするゴールです。

これらのポイントはパートIの残りの部分により詳細に考察を述べておきます。もしあなたが初心者なら、まず

第3章に進んでください。第2章は我々がお奨めしていることの理由がなぜなのかを理解する一助になるでしょう、そしてそれ以降の章は皆さんの上達のためのものです。

経験上、自転車の練習と同じく、通常の場合一旦13語毎分以上の速さを会得すれば、符号を決して忘れることはありません。 「錆びつく」ことはあっても、すぐに元に戻せます。
 

習得にどれくらいの期間がかかりますか?

以上述べたような原理と方法を用いて教えられる場合、最短で1週間、平均で約3週間から8週間で15語ないし20語毎分で運用できるまでになります。人それぞれの、背景、態度、取り組みかた、興味、愛好、精力などの度合い、そしてモールス符号を習得したら何をしたいのかという気持ちなどは、一人一人で異なります。これら全ての要素が習得までにかかる時間を左右します。 主な要因はいくら時間がかかろうともそれを自由に使えるようになりたい、使いこなせるまでに習得したいという欲求です。単なる上級免許を得る目的だけで覚えて、使うつもりがない人はおそらく1、2年の内にそれが有用でないものと感じるでしょう。 しかし、そのうちの一部の人たちは、モールス通信が興味深く本当に面白くて有意義なものであることに気がつくかもしれません。実際にそのような人たちがいます。詳細は

第12章を読んでください。

モールス符号はそれをよく知ったとき、楽しみとなる。それは巧みに富んだ技能の修練です。

モールス通信それは楽しむもの

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