無線電信の巧みと技
William G.Pierpont N0HFF
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改訂2版-第12章
習得にかかる時間は?
効果的な符号学習の例-あなたのアプローチは効果的?
かなりゆっくりで手軽なアプローチを紹介します。
計30時間、1日30分を60日、でモールス符号の基礎を確立するものです。
それは
MARSHALL H. ENSORの符号学習コース
Ensor は工業高校の先生をしながらボランティアでARRLのアマチュア無線講師をしていました。彼は「お空の教室」を企画して自ら教えていました。それは自分の無線局W9BSPから160mバンドの電話モードで声と発信器を使ってアマチュア無線の基礎を教えるものでした。 それは2ヶ月間平日毎日実施される60回の基礎コースからなり、10年以上毎年1回実施されました。彼が教えた基本的な方法をここに紹介しましょう。
このコースで多くのアマチュアが訓練しほぼ100%成功を納めました。彼のコースを受けた生徒達は符号学習を全く苦痛に思いませんでした。彼は変化に富んだレッスンと持ち前のトークで生徒を飽きさせませんでした。彼は生徒たちと文通したり会ったりして生徒たちの状況を把握することに努めました。生徒たちはみな彼に勇気付けられました。彼は特に学習に熱心な生徒に敬意を表しました、たとえその生徒が後に止めてしまおうかもしれなくてもです。
各レッスンは1時間程度で一つのテーマに的を絞って、声とコードを使い分けて実施されました。各レッスンは約半分がモールス符号を教える部分で、残りが無線の基礎理論、話題になっている事柄、無線行政に関することなどでした。そこには生徒の興味を維持しながらモールス符号を学習し免許取得にまで導くだけのバラエティー性がありました。同じ符号練習テキストが繰り返し使われましたが、生徒を退屈させないために、同じ構成や内容のレッスンが続かないように工夫されました。さらに、生徒はごく最初から良い電鍵を手に入れ、発信器を製作することをせかされるものですから、レッスンの合間に正しい送信術の練習ができました。
符号学習のレッスン1はどうやって符号を音声化するかの説明から始まりました。それは符号を視覚的な短点と長点ではなく、音声パターンとして考えるため「トン」と「ツー」を使いましょうというものです。次のようなコメントがされていました:「これが覚えておかなければいけない音声パターンです」。
このような非常に重要なコメントはいろんな形で10回目までの全てのレッスンに含まれ、その後のレッスンでは方法を変えながら同じように強調されました。このような繰り返しの「音声パターン」の強調でその重要性が生徒の頭に刷り込まれました。そうした上の最初のレッスンで、彼はアルファベット、数字、記号など符号を一通り聞かせて全体的な音声としてのフィーリングを与えるようにしました。
続いてのレッスンでは10回まで
ABCの順番でアルファベットのみ(各々の文字が3回繰り返される)コピーしないで聞くだけの練習です。しかし、時々文字のグループを送信して書き取りをさせます。最初のレッスンから、5~9語から成る短い3つの格言に引き続いてアルファベットが送信されます。 それぞれの格言は先ず2,3回読み上げられ、次にゆっくり送信され、最後にもう一度読み上げられます。数回のレッスン後、生徒全員が送られてくるコードを全部取れるほどには上達していないにもかかわらず、コピーしようと試みます。彼は決して10
wpm以下の早さにはしませんでした。レッスン初期の実際の上限は5ないし10wpmを越えるくらいです。その後、たまに10台から25wpm程度に上限があがってきます。最初のスピードはそんなに速くせず、ランダムに変えられました――時に6wpmであったり、10wpmかそれ以上であったり――これはいろんな早さで符号がどのように聞こえるかを体験させるためでした。後半のレッスンでは広範囲でバラエティーに富む文章が送信されました。初期のレッスンで生徒たちは格言や助言、激励を受け、それに馴染み、後半にその日のレッスンのテーマテキストの内容から送信されました。 (レッスン30からはアマハン、ライセンスハンドブックなどから引用された内容が、最後にはclass Bの試験問題からら引用されました。)レッスン3が始まると彼は生徒にスペースで分けられた単語を書き下すよう励まします。まだそれができない場合はスペースを空けないで文字の連続でよいから書かせます。すべて通常の手書きをさせます。 レッスン7までには平均的生徒は
5wpmでアルファベットをコピーできたようです。 レッスン8からは数字と良く使う記号がアルファベット復習に加えられて、レッスン27まで頻繁に音声化して練習されました。レッスン15以降は、さらなる学習のため自動テープ送出器でいろんなスピードで練習テキストを送信しました。明らかな目標は生徒に繰り返しの聞き取りと書き取り練習で文字、数字、記号の符号を音として十分に慣れさせることでした。レッスン12位から各レッスンにより高速の部分も加え、進度の速い生徒や練習意欲の薄れそうな生徒への刺激としました。レッスンが進むと
25wpmまでの異なるスピードを使いました。「耳」の疲労を避けるため、各レッスンの符号学習セグメントの間には数分間の言葉によるコメントタイムを入れまたり、レッスンテーマに関するテキストを読んだり、一般的興味のある話題を話しました。レッスンの符号セクションは5から10分程度でした。後半のレッスンでは符号学習が無線理論と実践教育を兼ねました。しばしば学習方法についての一般的なコメントもしました。レッスン13からは1、2文字の遅れ受信をさせました。レッスン30以降はほとんどのテーマが当時生徒たちが手に入れたいと願っていた
ARRLのアマハンとライセンスマニュアルから採用されました。 それらの書物は無線従事者試験をパスした者を対象に準備されたもので、電気と無線の基礎、米国アマチュア無線関係法規、運用の実際などが解説されています。彼の生徒たちは簡単に10~13wpmの試験にパスして凱旋することができたのです。Bruce Vaughan(現NR4Y)も生徒の一人でした。彼は1938年の秋から符号学習をはじめました。数年後次のようなことを書いています。「符号学習が難しいという人がいるがどうしてか理解できない。自分がCW受信学習を始めたころのことは漠然としか覚えていないが、思うに神様が私の空っぽの脳味噌に符号読み取り器を概念として造って下さったのだろう。」 彼は上述した2ヶ月のコースで符号を覚え、政府の試験に簡単に合格したのです。
その他の例-ハンディキャップで能力が増す
彼はどうやっているのでしょうか?――彼は生徒に言います。「モールス符号は世界で一番簡単な【言語】です。たttの26単語しかない。一晩で新しい26単語が覚えられない人がいるでしょうか?新しい言語を学習するとき、各単語をどうスペルするのか、各単語は何文字なのかとか考えないでしょう。単語がどう聞こえるか、それがどういう意味かを考えますね。 同じことがモールス符号学習でも言えるのです。それぞれの文字が音と意味を持っています。知るべきことはそれだけです。」
彼は先ず簡単な文字
(E T I M A N S O) から始めます、そして中間の文字 (U D V B W G) に進みます、そして最後に残りの12文字をやります。彼は音のリズムで教えます。「トン」と「ツー」即ち短点と長点で教えるのではありません。彼は実際の音声でもって教えます――宿題やその他の勉強はありません。彼は自分の無線機、エレキーとパドルを使って実際にの交信を見せます。ABCを覚えた後の、彼の「実証されたCW教習技術」について彼は次のように言っています。
生徒に紙と鉛筆を持たせないで、非常に早いスピードの符号を聞かせます、彼(Steve)が気楽なテキスト、例えばスポーツチームや町の名前を入れたりしたもの、を送信します。 彼は言います。「何も書くな。ただコードを聞いて、もしその内の少しでも理解できれば、それで良し。」
彼は9歳になる甥のRob(脳性小児まひだった)が彼(Steve)の無線交信を見て興味を示したので教えることにしました。 符号を教え始めて3週間でRobはノビス級に堂々10歳で合格しました。 RobはノビスCWバンドをしばらくの間5wpmでうろうろしていましたが、あるとき高速の交信を耳にしてその早さに興味をひかれました。彼(Rob)はコピーしようと試みましたが早い送信に書き取りが追いつかないことに気がつき落胆しました。 そこでSteveは次のように言って励ましました。「何も書くな。ただコードを聞いて、もしその内の少しでも理解できれば、それで良し。」
Robは言われたとおりただ聞くことにしました、最初は2%程度しか取れなかったのですが、数日高速交信を聞いた後には20%程度取れるまでになりました、「この程度とれれば交信するには十分だ。」とSteveは言いました。Steveは彼にコピーできない程の早いオペレーターと交信することを勧めました。彼は交信しました、たとえ相手のコールと名前しか取れなくても。(Steveは彼に「それでも立派な交信だよ」と言いました。) Robがジェネラル級に昇格したときに、Steveは彼にエキストラ級のバンドの近くに出て本当にすごいオペレータを見つけて交信するように励ましました。彼はその通り行い、3週間で5wpmから35wpm までテープやパソコンプログラム等の「仮想の」道具なしで上達したのです。彼は実際に交信することだけで成し遂げました、それはSteveに言われたとおりにやっただけでもあります。
Robは12歳でアドバンス級に合格し、エクストラ級も受験しました、コードの試験は簡単に(100%正確に)何も書かずに全問正解しました、でもまだ十分な数学を学校で習っていなかったので理論の試験で落ちてしまいました。彼は13歳になる直前にエクストラ級に完全合格しました。彼は今CWコンテストでほとんどの交信を45~50wpmでやっていますがコールサイン以外何もログに記入しません。
この障害を持つ十代の少年はほとんどどんなスピードでも正確に受信ができましたが、彼は短点と長点さえ知らなかったのです。かれは符号をそのように覚えなかったからです。符号は常に彼にとって安易な存在でした。 Robはコード試験に合格できない人はバカだと思っています、なぜなら彼にとってコードは難しいものではなく脳性小児まひという学習上の障害がある彼でもできたからです。彼の成功はSteveの学習法の最たる例です、かれは決して「難しい」といいませんでした、そして本当に容易だったのです。彼は良い態度を持っていましたし問題があるということを知りませんでした。彼の能力には上限が無いようです。彼は最初の出会いから正しい方法で学習できたのです。
さらなる例
Waldo T. Boyd K6DZY は海軍無線通信学校を卒業しました。3ヶ月で彼は35wpmとれるようになりました、その後ほどなく50wpmを簡単にとれるようになったそうです。「世界で最高のオペレータの一人」として知られるDick Spenceley KV4AAはDanny Weilを1ヶ月で免許を得てDXと20wpmで交信できるまでに非常に優秀に育てました。 それは良き先生と渇望する生徒の組み合わせの結果です。
いくつかの特筆すべき効率的な例
我々が聞いている最も速習の記録は、試験の直前1週間前符号練習を始めて合格したという例です。あなたは、「ちょっ待て。いったい何が起こったの?」と言いたいでしょう。その通り、これには裏話があります。何があったのでしょうか、私達はそこから何を知ることが出きるでしょうか。
それは彼の条件付け、彼の背景です。それが重要な役割をしています。彼の父親は地方鉄道局の腕の良い電信士でした。 彼の一番小さい頃の記憶は父親の電報局の執務室の床にすわって音響器が発するクリック音に聞き入っているというものでした。無意識のうちに父親の局が呼び出されているのがわかるようになり、呼ばれていると父親を呼びに行ったものでした。 普通の人はモールス符号ではなく英語という言語で読み書きするのだということを知ったのは彼がもう少し大きくなってからでした。
彼の精神はモールス符号の音に極めて敏感になっており、符号を正式に学習し始めたときには既に、それにどっぷり浸された状態で、できなくてつまづくというようなことが全く無かったのです。かれは完全に条件がそろって、準備ができていたのでした。さらに、ほとんどの10代が思うように彼も感じたでしょう、「父さんが出来ることは、自分でもっとうまく出来る。」と。 彼のような背景のある人は少ないでしょうが、かれの一件は何でも出来る可能性を示唆しているでしょう。 精神的に条件付けをすることで物事を容易にすることは一つの手段かもしれません。慣れたことは難しくないというのは昔の話ではないようですね。
最年少の記録では、ブロック体の大文字がやっと書けるようになった4歳児がコード試験にパスしています。 4歳児に負けて平気でいる人は少ないでしょう。それではもっと高いレベルを考えましょう。
決断と忍耐
どれくらいの時間が必要かは様々な要素で決まります。先ず重要なのはどのようなアプローチをするかです。準備できているでしょうか? 本当に習得したいでしょうか? 執着しているでしょうか? それをやると決めたでしょうか? これら全てが早期成功のために重要です。
対照的に
第一次大戦中のアメリカでは、必要に迫られ、機器の運用や手順の経験が無いまま、符号を覚えたばかりの通信オペレータが駆り出されました。
第2次大戦のアメリカ軍の無線教習所ではより厳格な訓練が行われ、訓練後半には有線による交信経験や故意に妨害を入れての練習が含まれることもありました。これら現実的な訓練ではしばしば次第に増加する
QRM(混信)を加えた訓練も行われました。 あるコースではタイピングを一から練習していましたが、上級クラスでは常識でした。 これらの高速受信訓練では高速の報道通信をコピーすることも練習しました。 正しい態度と方法で望めばそんなに時間もかからず難しいことではありませんでした。