無線電信の巧みと技
William G. Pierpont N0HFF
-改訂2版-
第3章
第2章 目次 第3章-パート2
長い年月を通して、モールス符号を簡単にかつ効率良く学ぶために、今まで数多くの方法が考え出されてきています。私達のここでの目的は、最も効率的なモールス学習方法を提示し、学習に必要な時間を最小にすることです。本来、非常に多くのアマチュア無線家が電信を楽しんでいるべきなのに、学び方が悪かったがために楽しむことができていないということは本当に残念です。この問題はモールス符号を覚えるのはむずかしいだろうと思い込んでしまったりすること、または、モールス符号を聴覚的ではなく視覚的に捉えるという非効率的・非直接的な学習方法が原因となっているのです。
すべては、どの様に学習を始めるかにかかっています。後ずさりして今まで間違って覚えたことを捨て去ることは、最初から正しい方法で学習することよりもずっと難しいのです。どのような方法で学習すべきか全くアドバイスがないまま、独学で学ぼうとすることは後になって困った事態を招くことがあります。学習する上での問題点としては、本人の態度や教え方または指導者が原因となっています。ある専門家によると、ハーバードでの最も困った学生達は何の指導も受けずに独学でモールス符号を学んできた人達だったそうです。
電信の符号は音のアルファベットです。それは耳で聞くことによって覚えるのです。私達が自分の言葉の読み方を学んだ時、まずABCを目で見て認識できるようになることからスタートしました。電信はABCを音として聞いて認識できるようになることからスタートします。この違いは重要です。符号は耳で聞いて覚えるのです。「音のパターンを認識すること」、これがモールス学習なのです。例えば、あなたがトツーという音を聞いた時、頭の中で翻訳することなく、Aと認識できるなら、あなたはモールス符号で考えていることになります。モールスの文字は音で成り立っているのです。紙に印刷された形でのモールス符号を見る必要性などまったくありません。
ですから、符号表など全部捨てることです。燃やしてしまいましょう!耳に聞こえる瞬間その文字を直ちに口に出したり、紙に書いたりすることはモールス符号を受信する癖をすばやく身につけるひとつの方法です。私達には音と文字の直接的な関連付けが必要なのです。モールス符号を視覚的に覚えたり、その他の非効率な方法で覚えたりしてスランプに陥った人は、音感的にもう一度最初から覚えなければなりません。今でもこの様にしてモールス符号を学ぶ人がいるということは残念なことです。現在、この様な視覚的な方法によりモールス符号を教えるのはもってのほかです。
思っているより簡単なのです。ある人に言わせると、「モールス符号による意思疎通の技をマスターすることは、人が話せるようになることより10倍も簡単です-しかもその話すことといったら、2歳の幼児だってできるのです」。全く新しい言葉を覚えようとしているのではありません。いろいろ不思議な単語が詰まった辞書丸々1冊でもなく、単語がいろいろ入混じった文章でもないのです。自分が今使っている言葉を目ではなく、"耳"を使って"読み取る"方法を習っているだけなのです。
文字が読めるようになる人なら、ほとんど誰でもモールス符号を覚えられます。普通の人の場合、覚えたかったのにできなかったなどということはありません。「私にはモールスは覚えられない」ということは大抵の場合、「モールスを覚えるのに必要な時間を割かない」ということなのです。または自分では覚えたいと思っているかも知れませんが、実は本当に覚えたいとは思っていないのです。年齢が若くても老いていても、聡明であろうがなかろうが、まったくモールス符号の学習の障害ではありません。4、5歳の子供でもすぐ覚えられるし、90歳の老人もモールス符号の学習に成功しています。4歳の子や90歳の老人があなたよりも早く上達するなんて認めたくないですよね。でも、優れた知能が必要なのではないのです。正しい学習法さえあればよいのです。
目が見えなかったり、また、耳が聞こえないようなハンディキャップがあることも学びたいと思っている人々の障害にはなってきていません。耳が聞こえない人達もモールス符号を覚えることができましたし、指をスピーカーの振動部分や、電磁気的に上下に振える"key knob"のツマミに指を乗せて、それぞれ毎分30ワードと20ワードの速さの符号を聞き取れてきています。(文字を目で見ることはできてもその文字を正確に認識することができない症状を持つ人の中にも、実用的な程度までモールスを使えるようになった人が何人かいます)。あなたが本当に覚えたくて、そして正しいやり方で取り組めば簡単なのです。ある程度の理解力がある人なら誰でもモールス符号は覚えることができるし、毎分25ワードの速度の符号を鉛筆を使って紙に書いたり、はっきりと滑らかにそして明瞭に送信できるとても優秀なオペレータになることができるのです。
「モールス符号をただただ覚えられない人もなかにはいるのです」という発言には本当は何も根拠がありません。(その人達は覚えたくないのです。)それは何を覚える場合にも秘訣となる"やる気"の問題なのです。もし、あなたが今までにモールス符号の学習を試みて何らかの理由でうまくいかなかったり、1分間に8、または10、あるいは12語程度で壁に突き当たった人達の一人としたら気を取り直してください。今までに覚えたことはすべて忘れ、ここで述べている原則にしたがってもう一度やることです。そうすれば成し遂げられます。
他人より上達が早い人達はいます。それは他人よりも早くゴルフやテニスが上達するコツをもっている人がいるのと同じです。従ってある人達はモールスを覚えるコツを持っています。その様な人達はのみこみが早いのですが、多くの普通の人はちょっと時間が長くかかるだけなのです。一般に子供達は音のパターンを緊張することなく簡単かつ自然に認識できるため非常に早く上達します。
モチベーション(やる気)
モールス符号を使って通信する中で感じられる達成感や親密感は、学ぶ努力をとても楽しいものにしてくれます。あなたがモールスを覚えるための時間を割き、心地よく付き合えばCWは面白いのです。やる気を起こし、やればできると心の中で決心してください。そしてリラックスして自分を他人と比較することなく、自分にあった速度で練習して、覚えていく過程を楽しむために時間をかけることです。モールスの学習を楽しくさせるのです。(一生懸命になりすぎたり、急ぎすぎたりすることは、上達への障害となる一種の緊張感を生んでしまうこともあります。)気にせず気楽に続けることです。モールス符号の学習に当てる時間を増やせば増やすほど、そして楽に覚えようとすればするほど、上手にそして早く上達するのです。成功間違いなしです。やる気と決心があれば最後は勝つのです。
第2次世界大戦の勃発により、短期間に多くの通信士が必要とされました。多くのアマチュア無線家達が志願し、直接、通信士として従事したり、新しく入隊してくる人にモールスを指導したりしました。しかしながら、新兵の中にはモールス符号に無関心だったり、覚えようとする姿勢が見えない人達がいました。入隊者の中には覚える意欲がまったく無い人も多く、また、モールス符号を覚えること自体に反感を持つ人さえいました。当然のことですが、彼らがモールス符号を覚えるまでには非常に長い時間がかかりましたし、非常に大人数の者が失敗し覚えられませんでした。電信とは、それを覚えようとする人の学習態度によって上達が非常に左右される技能なのです。
ある学校の講師がモールス符号の送受信を生徒の前で披露しました。生徒たちはとても魅了され、その1つの授業の中で14文字も覚えきることができました。モールス符号を聞いたことにより、その符号の良い面を感じとることができた(電信を知らない)生徒たちは、モールスができるかできないかチェックされる精神的プレッシャーがない状態では、往々にしてモールス符号に興味を抱き、最初から少なくとも2、3文字を覚えたがります。電信が必須でない資格を持っているアマチュア無線家の中で非常に多く人達は、楽しい運用を実際に経験した後では、アマチュア無線をもっと楽しむ方法を探しているのです。彼らにとってモールス符号は以前ほどそんなにつかみ所の無いものではないのです。
モールス符号を覚えるのは文字の読み方を覚えるのに似ている
これらのことは私達がモールス符号を覚え、上達させる上での手がかりとなります。モールス符号の学習の本質は、語学を学習する場合と同様、慣れ親しむことです。つまり何回も何回も繰り返すことです。自分が短点、長点、単語を受信していることを意識することなく、自動的(反射的)に符号を認識する段階まで練習することです。単語や文章をただ聴いているようにみえて、それでいて、伝えられる内容のみを意識している状態が最も上達したレベルです。そしてそれがコミュニケーションなのです。我々を満足させてくれる最終目標であり、時間をかけて到達する価値があります。ただ、それはあなたが超高速で受信できる人にならなければならないということではありません。
モールス符号は音の組み合わせです。
もしも思うように調子が上がって来ていない場合は、モールス符号を音の組み合わせだけとして考える始めることです。そうすれば、その瞬間から、かなり上達することでしょう。印刷された文字はある形を構成する線の組み合わせです。しかし子供達は文字を構成しているいろいろな線を見てアルファベットの文字を認識するよう教えられるのではありません。一瞬で全体として文字を認識するよう教えられているのです。同じことがモールス学習の場合に当てはまります。一つ一つの文字や数字が音のユニット、つまり特有な音のパターンであり、他のどの文字や数字とも異なるリズムなのです。モールス符号の文字は、発音された母音や子音がそうであるように、一字一字その文字特有の音のパターンを持っています。
モールス符号は音のパターンであり、耳で聴くものなのです。目から覚える方法は(例えば暗記するために使われる図や、韻や"語路合せのようなもの"を使う方法)、後の上達に大変大きな障害となります。そのような方法では、意識的に行なわなければならない翻訳をすることになるからです。もしあなたが「トツーはAを意味する」と考えながらやってきているとしたら、別個の"短点"と"長点"として捉えています。これは学習を難しくしています。ですから、"短点"と"長点"があると言うことなどは忘れて、音のパターンとして認識することを覚えるのです。次の様に始めてください。耳で音のパターン"トツー"を聞くたびAと考えるのです。そしてコピーできたらAと書くのです。ある程度練習すれば、優秀なオペレータのように文字がどこからともなくただ頭に浮かんでくるようになることに気づくはずです。いかなる翻訳なども介さず、音のパターンから直接、文字へ進むのです。口笛を吹いたりハミングしたりして音のパターンを作ってみることは役に立つかもしれません。