無線電信の巧みと技

William G.Pierpont N0HFF

-改訂2-

9 送信と「縦振り」電鍵 - その1

 

 第8章    目次    第9章-その2
 

送信の品質

ルール1:正確に送信できる早さより決して早くしないこと。
品質が常に第一、スピードは二の次です。言いかえれば――良い符号を送信できることは受信することより恵まれている(むつかしい)。 出きる限り完璧に近い送信をすることを目指してください。スムーズで統一された文字と間隔は個性的な送信符号よりも空電や混信を通りぬけて了解度が高くなります。常に受け側のオペレータが完璧にコピーができるように明瞭かつ正確に送信することを習得すべきです。(符号読み取り時における最大の障害は文字あるいは単語のスペーシングの不規則性です。 第15章参照)

「50年以上前に訓練生だった」というプロのオペレータは言います、「28語毎分で何回も再送して時間を無駄にするより、一回で100%受信できる20語毎分で送るほうが良いと教えられた。」

ルール2:適切な受信ができる早さより早く送信しない。
上記のルールを守らずにいると、ついには不完全な文字や不規則、ギクシャクしたスタイルの符号を送るようになってしまい、そういう癖が付いてしまうと後で克服することが非常に難しくなります。 悪い送信は電鍵を替えても治りません。内面的な誤った考え方を治すことです。
 

キーイングとそれが意味するもの
モールス符号の最たる特徴はその単純な変調方式にあります――01(二進符号):たった二つの「状態」を使うところです。このオン/オフの2つの状態は変調の状態・品質において歴然たる違いがあり、電気的・オーディオ信号的には高低と品質においても明らかな違いを示す。このことは送信系、受信系双方の機器を極めて簡略化できることになります。オペレーターあるいは機械的・電気的手段によって満足できる早さで二つの接点が切り替えられる物を構成すれば目的が達せられます。電気・無線電信通信においてはスイッチは単に「オン」と「オフ」の状態を制御するだけで良いのです。(単極-単線スイッチ)。

これは機構設計に幅広い可能性を与え、最も簡単には単に2線をくっつけたり話したりすること(緊急時などこれが使える)から、抵抗値を電気的に制御して機械的稼動部分を排除した電気的「スイッチ」を使うなどです。符号伝送においては私達はそれを"keys"「キー」"keyers"「キーヤー」あるいは"keying devices"と呼びます。この章では主に手動電鍵、つまり単純に手動で上下動作させる「縦振り電鍵:ストレートキー」について述べます。(他のタイプと使用法については第10章参照)
 

最初の電鍵
アルフレッド ヴェイル(Alfred Vail)は最初の縦振り"straight"電鍵を設計しコレスポンデント"correspondent"(通信員)と名づけました。  それは台座の上に単純な平たい帯状の金属板の片側を固定し、反対側の端に小さなノブを付けその裏側に電極を配置したものでした。この電極はノブが下に押し下げられると直下の台座上に取りつけた第2の電極と導通し、回路を閉じたり開いたりできるようになっていました。押下げを緩めると金属板のバネの力で回路は再びオープンとなります。それにはストッパーや調整機構などなにも付いていませんでした。

以来、このクラッシクな上下機構はすべての標準"standard"電鍵の設計を支配しました。その後のモデルは単にこの基本思想の改善、派生あるいは推敲にすぎません。
 

初心者へのお勧め
手動式のキーでの送信は、適切な技能を身につけるための練習と時間を必要とする一つの芸術です。このため、昨今の一部の指導者は、できれば初心者はキーボード(あるいは符号発生機能付きコンピューター)での送信を薦めます。キーボードを使えば不完全な(汚い)符号を送ることは不可能です。 キーボードはタイプライターのようにキーを押せばそのキーに対応する文字が符号として発生される道具です。間違ったボタンを押さない限り――キーボードでは間違った文字を発生することはありません。

キーヤ-は (第10章参照) 常に完璧な長短点タイミングとスペーシングを作り出します。しかしながら、オペレータは文字と単語のスペーシングのシーケンスをコントロールしなければなりません。これが結構な技術を必要とし、初心者の意欲を無くさせることがあります。 きれいな符号を送信することは簡単ですが、意図しないあるいは存在しない符号を作り出してしまう場合もあります。 従って、ストレートキーとキーボードどちらも使って送信することを学び始めるのがもっとも賢明と思われます。(ストレートキーはキャラクターのリズムパターンをより効果的に強化するために役立ちます。)どんなときにも、初心者は賢い指導者が言った次の言葉を心に留めておくとようでしょう:-「いかなるときも、私が良いと言うまでハンドキーに触ってはならない。」

このアドバイスは2面の目的があります:

1)送信を試みる前に符号の正確な音とリズムの精神的印象を生徒が持つことを確実にする。それと、

2)自分の不正確な送信を聞くことは確実に学習の妨げになってしまう。(第3章に記載したように)

ですから、最良の方法は文字の適切なリズムの良い感じを構築するまでキーに触れないことです。これは一般的に10~12語毎分かそれ以上を受信できるまでです。縦振り電鍵で練習を始めるときはタイミングの良い感じを会得している必要があります――即ち、符号の3つの構成要素:短点、長点 それと様様な長さのスペースです。(腕の動きがうまくコントロール出来ない人は、少なくとも受信技能を得るまでの間はハンドキー(縦振り電鍵)を使うべきではない。)

適切なリズムを習得した後であれば、縦振り電鍵で送信することは、練習であれ実践であれ、全ての点において受信能力構築のために非常に有益です。さらに、文字とワードの知覚力・認識力の更なる強化となる筋肉への記憶を開発することになります。定期的な送信練習は私達のコピー能力を培う助けとなります。また、送信練習は長時間疲労しないで送信できる手と腕を養うことにもなります。指と腕のエクササイズは、必要となる柔軟性と強弱の度合いを会得する一助にもなるでしょう。
 

「縦振り」電鍵
標準的な「縦振り」キーは単純なアップ&ダウン機構を持ったものです。アメリカでの使用法としては、電鍵はキーレバーと前腕が一直線になるように配置します。電鍵をコントロールするため、オペレーターは電鍵のノブを手首の上下旋回動作によって動かします。(電鍵の動きをコントロールするのに必要な大変小さな動作は手や腕の筋肉は得意では有りません。)電鍵のデザイン、それをオペレーションデスクのどこに置くか、どの様に操作するかは国によって様々であり、さらにその調整に至っては詰まるところほとんどが個々のオペレータによります。従ってここでは、一般的なことと経験者からのいくつかの助言を上げることにします。
【訳者注:下記は米国型の縦振り電鍵操作法であり、欧州・日本型とはかなり異なります。欧州・日本型については
第9章‐その2英国型電鍵に関する記述参照。】 

アメリカの縦振り電鍵とその使用
キーレバーは概して比較的薄く軸受けの前方が後方よりも長くなっているのが特徴です、そしてしばしばノブ側に向かって垂れ下がっています。そのコントロールノブは平らでアンダースカート(下側が円盤状になった指置き)がある場合も有ります。(これは元々オペレーターがキーレバーに触れて高圧感電する危険から保護するものでした。)ノブの頂点はテーブルからおよそ1.5~2インチに有るべきであり、しっかりした上下調整機構を備え(通常ノブ位置で1/16インチの動きですが、そのオペレーターに適して自由に調整できるのがベスト)ています。

電鍵は操作卓の端から十分距離をおいて(約18インチ)、肘がちょうどテーブルの端に位置するように設置します。オペレーターの腕は、手首をテーブルから離して、そっとテーブルに休め、水平にします。人差し指はキーノブのてっぺんに乗せ、中指は大体てっぺんの端に乗せます。親指は軽くノブの反対側の端に休めるか、ノブには全く触れない様にします。(生徒は自分の一番快適なスタイルを見つけるべきです。)電鍵を閉にする下向きの動作と開にする上向きの動作は手を固定して、手首を返すことで行ないます:手首がわずかに上にあがったときに指の先端が下にさがり、またその逆、で独立した指の動きはありません。上向きのキーノブ動作はキーに内臓のバネの復元力によって作られますが、親指でその動作を助けることもできます。

Walter Candlerのプロの電信士の訓練におけるアドバイス(つらい「手崩れ」"glass arm"になるのを避けるため)は:-

 

技能を身につける、間違うこと、そして自動的であること
熟練の電信士にとって文字やワードはその仔細を意識して考えることなく流れて行きます。適切で十分な練習はそれを習慣的な、自動的であたかも努力の必要が無い様に行なわせます――まるで単に話をしているように。しかしながら、もし何か邪魔が入ると、有意識が飛び込んできて訂正やコントロールをしようとするようになります。もしこの有意識干渉が続くと、それは習慣的な調和機能に取って代わり、結果として実際に送信するのに必要なもの以上の努力を要することになる。これは転じて緊張を作り出し、じきに自分自身に逆効果としてはたらいていることが分かり、そして(縦振り電鍵で)長時間送信していると「手崩れ」
"glass arm"を引き起こすことになります。( Walter Candlerのアドバイス 参照熟練したオペレーターは必要の無い単なる短点や長点を送信しません。

送信中に犯すミスについて。もし送信中に間違いを犯したら、まず必要ならそれを訂正しましょう、そしてそれを忘れ、落ち着いて続けましょう。決して緊張しすぎてもっとミスをしてしまうことを心配し始めないことです。(例えば、「もう、同じ間違いは出来ない」と思いあせってしまう)もしこのことがあなたを邪魔し続けるようなら、あなたの注意をつかの間でいいですから、各ワード(あるいは文字でもよい)をその順番のままに送信することに向けましょう。均等で適切なスペーシングで送ることに集中してみましょう、そしてまるで何も起こらなかったように自然に続けましょう。これはネガティブにならないで積極的で建設的な態度を作り出す一助になります。ミスの訂正に関しては、一般的なやり方としては:- 8短点(HHをノースペースで続けると同等)を送信するのが公式の方法ですが、もっと一般的な方法としてクエスチョンマークを使ってその後に正しいワードを(またはその前の正しく送ったワードも含めて)再度送信することをします。もしラグチュ-をしているなら、ちょっと間(ポーズ)をおいてから間違えたワードから再送することもできます。 一方、ワードの出だしの部分は単語の認識には一番重要なもので、もし単語が十分認識できるように送信できていれば、ちょっと間を取ってそのままなにもコメントしないで続行することも方法です。もちろん、これは公式通信の最中にはやるべきではありません。
 

個人的な特徴-こぶし(FISTS)
いかなる送信も手動電鍵で送る限り少なからず個人的な癖、特徴、いわゆるその人の「こぶし"fist"」というものがあります。それはその人の技能・経験が増すに従って無意識のうちに形成されます。オペレータがどんなに正確にしようと試みたところで僅かな特徴はなくなりません。これこそ、オペレータがモールスを受信してその送信主が名乗る前に「このfist(こぶし)を知っている」と即座に認識できる所以です。我々の「こぶし」はしばしばムードや心の状態を現してしまいます――興奮、疲労、退屈、怠惰など――声のトーンの変化より顕著にあらわすことがあります。

誰かがあるオペレーターのことを言いました:「彼の符号はあくびをしているようだ」と。しかし、それ以上の意味がそこにはあります。使用する電鍵のタイプによっても送信する符号に影響を与えます。これはこの種の電鍵は高品質の符号を作れないということではなく、その特徴有る構造と使用法はある種のキャラクターを醸し出すということです。

縦振り電鍵、複式電鍵あるいはバグキーは"jerky"(ねじれた)あるいは"choppy"(波打った)ような符号を出したり、全体的にまたはある符号に関して不規則に長すぎたり短すぎる短点や長点を出したりしやすいものです。 よくあるバグキーの間違った使い方は、短点を長点に比べて非常に早くしてしまうことです。複式電鍵はたいへんへんてこなタイミングの不揃いな符号を出してしまいがちです。使用する電鍵のタイプは、受け手への聞こえ方ということから考えれば、送信者の「こぶし」に大きく影響をあたえることさえもあります。

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