無線電信の巧みと技

William G.Pierpont N0HFF

-改訂2-

9 送信と「縦振り」電鍵‐その2

 
 

9 - その1    目次    10
 

電鍵
電鍵のデザインとそれをオペレーションデスクに据え付けたときのデザインは操作の快適性と容易性のために重要なことです。ノブやパドルの高さが適切かどうか、動作が大きすぎたり小さすぎないか、あるいは硬すぎたり柔らかすぎないか。(ある英国の試験官が送信術の受験生のことをこう言っています:「モールスの試験に自分の電鍵を持ってこない受験生がいることに驚きを禁じえない。」)

試験当日初めてお目にかかって‐‐いったいどんな感じなのか、うまく使えるのかと考え悩むような、慣れない電鍵でモールスを完璧に送信しようとすることは無茶なことです。ある熟練オペレーターは言います:「新しい電鍵を使うときは、数週間問題無く使えて初めてそれが好きになる。ところが突然それが嫌いになる。そして他の電鍵を使ってみる。そう、そういう繰り返しがある。なぜそう感じるのだろう。」‐‐このことは、一部のプロオペレーターが常に自分の電鍵を自宅に持ち帰り鍵をかけてしまい込んでしまうということとも共通しています。ですから、昔からの電報局の絶対不可侵のルールが:「決して、決して絶対に、どんな状況であっても他人の電鍵の調整個所に触れないこと」であったことも別段驚くことではありません。

電鍵そのものだけでなく、それを置くテーブルの高さも重要なファクターです。しかたなく自分の足や、取っ手などに取りつけて使わざるを得ない場合もあります。窮屈でぎこちない運用ポジションをとらざるを得ない場合もしばしばあります。それと使い慣れているかどうかの問題もあります。

 

伝統的英国キーとその用法
アメリカ人にとってこのタイプの電鍵の第一印象はどっしりして頑丈なレバーとコントロールノブの高さです。これらの特徴は19世紀末期の政府郵便局のデザインから由来しています(当時かれらは電信を運用していた)。そのキーレバーはまっすぐで重厚な真鍮棒でできており重心に近い部分にピボット(旋回軸)があります。レバーの重さの大部分は返しバネに逆らうように働きます。そのコントロールノブは滑らかな輪郭を描き、木製引出しのノブに似ています、やや洋ナシの形であったり
L型ハンドルの状の形になっており、普通は上側表面を特に円くしてあります。その直径は下側から上に向かって膨らんで行き、てっぺんのやや下のところで最大になる。最大径はアメリカの典型的キーノブと同等かやや大きい。そしてノブ位置はアメリカのものよりも高い。

 そのまっすぐなレバーと背の高いノブが意味するところは、この電鍵を操作するとき腕のいかなる部分も操作卓上に休めることが適切でないということです。従ってノブがテーブルの端に来るように設置して、腕はデーブルの前方かなり高い位置にのばすのが適当です。

年月を経て、スプリングのアレンジ、寸法比率、ノブの輪郭、ベアリング保持、等、さまざまな変化が加えられましたが、重厚なレバーと高いノブ位置は多かれ少なかれ変わりない特徴です。

このタイプの電鍵の伝統的な使用法:

我々アメリカ人にとって、ぎこちないオペレーターの腕のポジションに思えるますが、手、手首、腕は緊張したり堅くなったりしません。初心者はキー接点間隔を大きく取ってキーの開閉の音を聞けるようにします。スピードが速くなるに従って間隔を狭めます(ほとんど隙間が無いほどにする者もいます)。ノブを指先で微妙にコントロールするオペレータもいれば、手全体でノブをつかんで操作する者もいます。非常に軽いバネ圧を好み、手首の動きを利用して親指を接点オープンに使っているオペレータもいますが、その他はバネ圧による返り動作にまかせています。

初心者が上達するにつれて、個々に快適なキーイングスタイルを見つけます。電鍵のデザインやオペレーターの好みによって様々な調整の違いがあります。オーストラリアやニュージーランドは英国様式に従っているようですが、他の欧州諸国は必ずしもそうではないようです。オーストラリア人はアメリカ式電鍵でうまく打つのは難しいと言います‐‐それは、平らなノブと、テーブルの奥に置くせいです‐‐まるで第二次大戦中の地対空無線局に設置されているようです。彼らはそのアレンジを「馬鹿げたシロモノ」と呼びました。このように、良い電鍵をデザインして使用する方法は基本デザインにおいても詳細なデザインにおいても一通りでない様々なバリエーションがあるようです。
 

縦振り電鍵を使う
 もちろん、手動電鍵で完璧な符号を送ることは不可能ですが、できる限りそれに近づけるように練習するべきです。もし指導者がいれば、彼は次のようにするべきでしょう、例えば、「私が符号を送る間 良く聞いて、折り返し聞いたとおり発生しながら送信してみなさい。」送信練習の初期段階ではアルファベットと数字でこれを指導者が満足するまで繰り返します。

指導者なしでできる方法としては:ヘッドフォンの片側から録音した符号を出して、もう片方からは自分の打鍵のモニター音がでるようにします。そしてテキストの内容を打鍵して聞き比べます。モニター音が一致するように努力します。

 学習者の送信術を評価するオプション機能が付いたコンピュータープログラムもあります。 下記参照

 大抵の指導者は比較的ゆっくりした手の動きで始めることを勧めます。毎秒12回位が意識的にコントロールした手の動きの平均的ですが、10を超えられない人もいます。その動きは速度の上限を決める繰り返し運動です。外部からの命令が手に伝わって動き出すまでの総合反応時間は約150200ミリ秒(耳-または目-脳-筋肉)。送信術、ピアノ演奏などにおいてはこれよりずっと早く反応する必要があります。これが無意識の精神的機能のつかさどる部分です。

 縦振り電鍵による最初の良い練習法は短点の連続をゆっくりと均等な比率で1、2分続けることです。 それから徐々に心地よい速さに上げて行きます。そして20~30の「S」の連続を均等に且つスムーズに、適当なスペースを入れながら送る練習をします。その後、同様に20かそれ以上の「O」を送ることで長点の連続送信をします。この練習は電鍵をコントロールする適切な感覚とセンスを養います。これが終われば、短い文章に挑戦します。ゆっくりと均一に、そして文字と語の感覚を十分保って、例えば次のように:
 

"I   a l w a y s   s e n d    e v e n l y   a n d    s m o o t h l y"

これを何回も試して、徐々に間隔を狭くして普通の間隔になるまで繰り返してください。正確なタイミングのために送信をモニターしましょう。送信モニター音を録音してあとで他の人にどのように聞こえるか評価してもらいましょう。

 明瞭で正確な送信スタイルのために約10分のウォーミングアップをしたら、あとは快適に長時間送信できるはずです。優秀なオペレーターは高品質の国際モールスを縦振り電鍵で毎分2025語は送信できるようになります。一部は30語毎分までできるようになりますが、35語毎分あたりが絶対的な限界のようです(アメリカンモールスの約45語毎分に相当)。一方、たとえば毎分25語受信できるからその速さでうまく送信できるとは考えてはなりません。理解できないものは送信する価値が無い。
 

「手崩れ」"Glass Arm"
Candler氏による電信士の "Glass arm,"(手崩れ)あるいは " telegrapher's paralysis,"(電信士麻痺)とは:

進行性で辛い前腕の状態で、腕から次第に力と俊敏さがなくなり、コントロールの部分的喪失によって短点を普段のスピードで正確に送れなくなる。

早く疲れるようになり送信が「不愉快なこと」になり、それが意欲喪失や異常な焦りを招きます。それは神経過敏ではじまることもそうでないこともあり、じきに静まり、本当の手崩れは炎症もひりひりした痛みもありません。この状態は不必要な緊張や不正確な電鍵操作が原因であり、防ぐことができます。手崩れを招く要因には次のようなものがあげれれます:

これらは全て適切な精神的あるいは物理的矯正によって予防あるいは治すことができます。ある人は電鍵を横置きにして解決できた場合もあります。また、複式電鍵や「バグ」キーに転向してしまう手もあります。Candler氏はある種の感染による手首、前腕、背中、首あるいは頭の痛みがある場合も「偽の」手崩れ現象があると言っています。それが治療できることは明らかです。
 

手動電鍵(ハンドキー)の動作テスト
初心者にとって、習慣化してしまう前に失敗を経験してしまうことは良いことです。オペレータの送信能力を測る二つの方法があります。一つは送信の品質、了解度に関するもの、もう一つは忍耐力と快適性に関するものです。送信品質はいろんな方法で評価できます。自分の送信を時々録音しておいて二三日置いてから聞いてみてそれが聞きやすいかどうかをみてみるのも良いでしょう。ラフなやり方としては受信側のオペレータにコメントをもらう(あるいは再送要求が何回あるかで判断する)。以上のことはバグキーのオペレータにも是非お勧めします。

 送信術を評価するコンピュータープログラムはたくさんあります。秀逸なプログラムの一つにGary Boldの診断プログラム「DK.BAS」があります。これはQBASICで動作する彼のモールス教育ソフトの一部です。(第18章参照) 自分の送信術を自己評価するといかんせん控えめになってしまいますが、このプログラムはどこが悪いのか、どうすれば改善するのか正確に示してくれます。

 使用者の典型的なコメントは:―― 使用前:「私の送信はそんなに悪いとは思えないんだけどね」、使用後DK.BAS's のアドバイスを受けて: 何度も試していくうちに、私とコンピュータの違いが言語だけであるかのように思える程度まで上達していることに気がついて、実際のところすべてのエピソードに啓発させられました」。 もし、どこか間違っていると感じてはいるものの適格にどこが悪いのかわからないなら、そのプログラムはあなたの為にあるようなものです。 表示される改善をすることに集中すればあなたの送信術は確実に良くなります。

耐久力と快適度をためす最適な方法はどっかと座って読み物を1525wpmの心地よい早さで約1時間送信してみることです。 最初の約10分でこぶしが引きつってくる、それを克服し、容易で正確な送信ができるようになれば、あとは少しの不快も感じることなく長時間の送信ができます。一方、もし基本的な正しい電鍵操作を習得していないと、最初の15分で手が異常に痙攣して「爆発blow up」してしまい、手首が痛くて続けられなくなります。 そうなるということは逆に、あなたがやっていることが正しくないという証拠でもあります。
 

良い手動電鍵とは?
操作の容易性とコントロールしやすさが手動電鍵に求められる最優先課題です。最初のモールスキー(その名は"correspondent")は求められる機能を果たすのに必要な最小限のデザインでした。その後のデザインは、使用上の簡便性や見てくれなど、その他の要素も考慮されました。 高出力スパーク無線局の時代には、その性格上、高い電流を扱うためにその電鍵はごつくて不恰好なものでした。

良いキーのレバーの軸は摩擦無く自由に動き、ノブあるいはパドルが決められた方向以外にはピクリとも動きません。 返しバネは最良に調整可能でなければいけません(縦振り電鍵の場合は250400グラムのバネ圧が推奨されています)。 このバネは強すぎて送信符号が歪んだり、弱すぎて符号がつながってしまったりしてはなりません、回路がオペレーターの介助なしにオープンになるだけに必要十分な強さにします。

 ある速度のキーイングに対して求められる力は、スプリング、接点間隔、稼動パーツの慣性力などの要素で決まります。キーレバーは、感知できるような振動やバウンド(重複接触)など無く、確実に接点がコンタクトするに十分なバネ圧としておくことです。 ベアリングは常にガッチリと頑丈でなくてはなりません。(ベアリングの点接触よりも、フレキシブル線による電気的に確実な接点がベストです。) 返しバネ(リターンスプリング)はオペレータの好みに応えられるだけ十分な範囲で調整が可能であるべきでしょう。 間隔(ギャップ)の設定は確実な感じを与え、個々人の好みに合うようにしながら十分広めにすべきです。 押なべて「理想的な」電鍵のデザインはあるでしょうか?――私の印象は、広く受け入れられている電鍵は様々な好みに対応できるように広範で細かな設計バリエーションを備えています。

 以上述べましたことは、その電鍵が「感じ良い」と思えるのはそのデザインが問題ではなく、いかにそれを使いこなし慣れ親しむかにかかっているということだということを物語っているのではないでしょうか。 電鍵の心地よさは部分的には、国、歴史などによる違いや、個人的な好みの問題もあります。また、それが据え付けられている物――木製テーブル、膝の上、コンクリート、等――そして、据え付け方法で使用感が大きく左右されます。「すごい」と感じるか「まあまあ」か「死んでいる」と感じるか、逆に邪魔になる存在とまで感じるか。それらは全て、一部はハードウェア、一部は心理的または個人的な要素が影響しています。
 

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