無線電信の巧みと技

William G.Pierpont N0HFF

-改訂2-

6 どれだけ早い?という誤った質問-どれだけうまいのか!

 


 

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「どれくらい速いのでしょうか?」

‐‐この質問が単独で発せられた場合、実に悪い質問ということになります。なされなければならない質問は、「どのくらいうまいのか」、あるいはおそらく「どのくらい効率的か」「どれくらい知的か」といったものでしょう。

電信の符号は単にコミュニケーションの手段に過ぎないですし、コミュニケーションとは、言葉や文という形で、ある人が別の人へ考えを伝達することです。もしある人がとてもゆっくりと話したら、注意力は徐々に途切れがちになりますし、理解は困難になるでしょう。もし早口過ぎれば、ものごとは間違えられてしまったり、誤解されてしまったりするでしょう。つぶやくように話すことはたいていの場合、許されません。速さそれ自体は、「助けて!」という時のような緊急時でなければ、ふつう目的にはならないでしょうし、緊急時であってさえも速さというものはコミュニケーションを助けるというよりも阻害するでしょう。一般的な目的は、首尾一貫性と正確さです。速さは私たちにとって便宜的なものです。

プロのオペレーター達は、迅速かつ

100%正確に大量の電文量を処理する能力をいつも誇りにしてきました。あるオペレーターは次のように書いています--「50年以上前、プロオペレーターの訓練生として私は、20wpmの速さで送信し1回で100%受信できたほうが、無駄な繰り返しを含む28wpmでの送信よりよいのだと言われました」と。

米海軍では、何をおいてもまずは正確性、速度はいつも二の次だ、と強調します。戦闘、生命、高価な戦艦--しばしばこれ自体が戦果になります--というものは、コミュニケーションにおける完全な正確さに依存しています。戦時あるいは緊急時には、たったひとつの間違った言葉や数字が破滅や悲劇を招くでしょう。正確さというものはいつでもどんな時でも最優先されるのです。電信の符号はコミュニケーションのために考案されたのであって、それが唯一の目的なのです。

もしその符号が理解できないものであれば、時間と努力の無駄になるでしょう。もし私たちが自分だけの言葉や、作るのが難しいくらい自分流の方法で送信するならば、受信するオペレーターが理解するのは不可能でさえあります。話し手が、強い方言のあるしゃべり方や重大な欠点のあるしゃべり方のときに、それを理解しようと奮闘する気になりますか?

もし、アマチュアの心に率直な喜びをもたらすようなものがあるのならば、それはどのように送信しどのように受信すればよいのかを本当に知っているようなオペレーターとコミュニケートする喜びでしょう。そうした人々の一員を目指しましょう。
 

 

受信しやすさ


どのくらいの速さで受信できますか。高い技術のオペレーターにとってさえも、これはほぼ完全に送り手の打ち方のうまさ--リズムやスペースの取り方、キーヤーのウェートの取り方--に左右されます。ある人が言うには「私は相手が最高のオペレーターなら50wpmの速度を取ることができますが、しかしハムの中には私が精いっぱいでも10wpmしかコピーできなかったり、ある古参のオペレーターの場合悪いクセのせいでコピーが難しいこともあります」ということだそうです。高速受信のための鍵となるのは、文字と文字、語と語の間隔を認識することです。これは、送り手はものごとを続けてしまうべきではないということを意味しています。心が次の語に注意を向けて準備する時間を与えるのは、実にコノ何分の一秒間一秒間、つまり(語間の)スペースなのです。私たちがより速く送ろうとするとき、しばしば起こる最初のもののひとつは、文字や語が続いてしまうことです。例えば「of」という言葉が「ツーツーツートトツート」となってしまうということです。私たちはこうしたものを読み解くことを学べますが、しかし、より長くあまりなじみのない言葉が送られてきてワードスペースも取ってない場合、私たちはすぐに、意味をなさない文字の迷宮で迷子になってしまうでしょう。(スピードが速くなればなるほど、略語・短縮語の使用は少なくなるように思います。)
 

 

満足できるコミュニケートをするために充分な速さ


FCCがアマチュア資格を与える最低の速度である5wpmに沿って、ゆっくりと行くことも可能であり--コミュニケーションと言えますが、しかし辛うじてというところです。過去おおかたのハムは、長年アマチュア無線技士の免許を取るのに最低限の要求であった10wpmで打つことに、多くの楽しみを見いだしてきました。たぶん、大多数のハムは1518wpmを、コミュニケートする願望を満足させる、快適で、充分で、しかもかなり心地よい速度だと考えてきたでしょう。

有線電信時代に戻ると、

16wpmは新人オペレーターの最低条件だと考えられていましたし、2530wpmは「標準」範囲の速さだと考えられていました。かなり長年ARRL会報は、私たちのほとんどが読み解き、書き留めるのに快適な速度である18wpmでした。速さそれ自身は目的ではなく、むしろオペレーションの熟達とかゆとりであることは明らかです(毎日の仕事の運転にレーシングカーを普通は買わないでしょう)。一方、言いたいことがたくさんあったり、広範囲にわたる個人的なやり取りをする必要があるとき、25から30wpmという最低限の速度は、考えを伝えることを続けるために本当に必要です。

お空を聴いていると、

CWモードでは、この範囲の速度は普通であるように思えるのは明らかでしょう。ラグチューの時は別ですが、コンテストの時は、あまりに遅い速度であったら、低い成績しか得られないでしょう。しかしそれでも速度それ自身は多くの価値を持っているわけではありません。分かりやすさや正確さが要求されていて、正確なコールサインなどが入賞のためには極めて重要なのです。バランスがあるべきなのです。

電信の全歴史の中で、ほとんど初期と言ってもいいころから今日まで、速さへの挑戦といったものが続いてきています。高速技術のオペレータ達は、売り込めて商業的にも高額の報酬を与えられるという一種の名人の域まで達しました。ビギナーや「売れ残り品」は、大なり小なりの軽蔑の目で見下されてきました。しかしアマチュア無線家にとって

CWは趣味のひとつの要素であって、私たちがそれをするのが好きだからやっているものです。私たちは熟達のための金銭的な動機も、平凡であることの恐怖も必要としていません。自分自身の必要と感じる意識や願望こそが私たちに動機を与えるのです。電動のこぎりの速度と競争できるような人たちは、遅いスピードで満足しているような残りの人間を見下すべきではないですし、われわれ遅い者たちも、今度は自分たちがニューカマーや障害者、13wpmで満足しているようなハムたちを軽蔑するべきではありません。私たちは自分たちが望んでいるのでなければ、自分の熟達度合を超えていたり、下回っているような人たちとコミュニケーションしなくてもよいのです。だから、私たちがここで強調すべき言葉は「熟達」であり、私たちの楽しみを満足させるようなスピード、私たちが快適に感じられたり満足できるような心地よいスピードが熟達というものなのです。
 

 

熟練オペレーター


彼は自分の限界のスピードで符号を打ち「くつろいで」います。極端なQRMQRNが緊張感を欠けさせることを除いては、彼は完全にこの範囲で送信したり受信したりして、全くもって快適に感じています。彼や彼女にとって符号は、会話するための(音声とは)ちょうど別の、とくに楽しめる方法です。彼は特別な努力をすることなく聞いていることを理解していますし、もちろん彼は、ひとつひとつの文字としてではなく、言葉としてそれを聞いています。こうした例のいくつかは、各地の小さな駅の古い有線鉄道電信員の話に見ることができます。

こうした人たち(他の業務が要求されたので、女性がこの職に就いたのは少なかった)は、列車の順番を乗組員達に伝えたり、駅に付属する鉄道会社の所有物を維持したり、手旗や腕木の信号を操作し通過列車の進行方向を切り替えたり、手荷物を扱ったり、貨物を載せたりなどなどをする責任がありました。つまり、電信というのは非常に重要ではあるけれども、彼らのいくつかある仕事のひとつなのです。彼らは、何かが電線を流れてくるのを待って、音響器のそばに座っているだけではありません。耳は音響器に注意を向けており、もし重要な通信が聞こえてきたら、他の仕事を中断できるよう準備しなければなりません。音響器はつなぎっぱなしにしてあり、ほとんど無意識のうちにオンラインで流されているすべてを耳に入れるために、彼らはそれを聞くことができましたし、聞いていました。それで、彼らは進行中のすべてのことを知っていました(ちょうど大きな共同線のように)。過去のそして現在の熟練した大変多くの無線オペレーター達はこれと同じことをしているのです。

長年職業としてオペレートしてきて、ハムでもあるそうした人のうちの一人は、次のように書いています。「鉄道会社の電信士としてそして(無線)オペレーターとして働いてきた間、私は有線もしくは無線で何が起こっているのか聞きながら、他のことをすることができましたし、できるのです。実際問題として、たった今、私は

20メーターのCWで、何がなされていて、誰が出ていて、どんなことを話しているかなど、この手紙を書きながらでも完全に理解しています。3040wpm以上の速度で、私はいつも音響器から流れる符号をコピーしたり、時間前にメッセージを届けたり、もろもろのことをしながら完璧な会話を続けることができます。
 

 

あなた自身のゴール


だから、スピードに関するあなた自身のゴールをどのくらい速いものにするべきなのでしょうか?--あなた自身の性質や願望、あなたが快適で楽しいと感じられるといったことを満たすようなところにすればよいでしょう。また、現実的なところがよいでしょう--たどり着くまでに時間がかかりすぎて自信を失わせてしまうような速すぎるところにしてはいけません。しかしお空で読んだりコピーしたりするのに使えないような、たくさん楽しんだりできない、遅すぎる速度もいけません。もしトップを目指して挑戦したいと感じるならば、たぶん、ここで示しているような線に沿って、上達の段階に分けるべきでしょう。

Ted McElroy, は、長年電信のスピードのチャンピオンであり教師ですが、「25wpmが簡単に到達でき理にかなったゴールでしょう--このスピードを快適に扱うことができる人は「良い」オペレーターです」、ということを言いました。しかし、もしあなたが30から35wpmを読んだりコピーできるのでしたら、この加わったゆとりはあなたの出会いを広げるように、誤りや空電とその他の種類の混信、取りこぼしを訂正することができるようにしてくれるでしょう。 本書では、何がなされてきて何がなされ得るかをすべての人を対象に解説しようとしていますが。あなた自身が求めるものを選んでください。あなたの周りの速すぎる人たちに引けを取るまいとする必要はないのです。

まず、いの一番に、面白がって楽しんでください。「良い」オペレーター? 「熟練」オペレーター? 「専門家」?「達人」? 次々と意識的な努力から開放されるにつれ、それぞれの段階に到達する度に喜びが増えていくでしょう。速い速度に到達することは、想像以上に簡単なこととなるでしょう。たいていは、既に始めたことを続けていれば、正しいアプローチの仕方や練習の仕方の問題なのです。上達の割合はだいたいのところはどのように取り掛かったかにかかっており、費やした時間の2乗に大なり小なり比例しているでしょう。あなたは何を望んでいますか?
 
 

ものごとを短縮する


遅すぎる符号のスピードでは、普通の英語を使ってものごとを話すには時間がかかりすぎて、うんざりして退屈にさえなってしまうでしょう。これは、遅いCWのオペレーションで現実に楽しむうえでのよくある障害ですが、これだけが飽き飽きするようなQSOになってしまう唯一の理由ではありません。これは部分的には、ある種の短縮で克服することができます。無線の初期には、符号の速度は多くの理由でゆっくりとする必要がありましたし、それゆえ効率アップのために有線電信から3つのアイデアを借りたのでした。

Q」符号は、たった3文字で幅広い範囲のことを伝えられるようにしてくれました。もしクエスチョンマークが付けられているのなら、その送信は質問をしていることになり、付けられていなければ陳述をしていることになります。例えば、「QTH」は「私の現在地は」ということを述べているのですし、「QTH?」は「あなたの現在地はどこですか」ということを言っているのです(ときどき聞くことがある次のようなものは送信時間の無駄です:"My QTH is ..." あるいは "What is your QTH?")。ARRLオペレーティングマニュアルの、こうしたよく使うものの表を見てください。(似たようなもので、より拡張された特別な商用の3文字符号がかつて考案されて、「Zコード」と呼ばれました。このコードはあまり広く受け入れられていませんが、覚えるのはずっと簡単です)。

多くの文で、分かり切っているような単語は、文章の意味を変えることなく完全に取り除いてしまうことができます。

"I" とか "the" とか "that"などのような単語は、しばしば、混乱をもたらすことなく省くことができます。いくつかの単語や言い回しは、重要性を損なうことなく無視してしまうことができます。こうしたことは、電報を送るとき費用を削減するために一般的に行われていることです。

さまざまな種類の略語や一種の省略表記法が、長年にわたって一般的に使われてきました。そうしたものの多くは裁判陳述記録を作っている人々によって広い範囲で使われましたし、そうでないものは古参の電信士によって彼らの特別な目的のために考案されました。いくつかの違った案が、彼らによって考案されてきました。

しかしながらアマチュアは、秘密の符号や暗号を使うことはできないという法的規制を忘れてはいけません。私たちのコミュニケーションは、一般的に使われていたり理解できるようなオープンなものでなければならないのです(例えば、古いフィリップスコードは、世間に知らされているものであり、適切なものです)。古いハンドブックは、標準的な表といえるような普通に使われる略語の表を載せています。あるものは一般的に使われたりしますし、またあるものは通信量が多い場合に使われたりします。

プロの電信士が比較的高速度で報道(ニュース)を送信しているとき、フィリップスコードと呼ばれる非常に拡張された略語系を使いました。送信側のオペレーターは至急電のニュース中の多くの単語や言い回しをこのコードに変換しましたし、受信側のオペレーターはニュースをコピーするとそうしたコードを普通の英語に再変換しました。この方法で、送受信される文字数の総量は約

40%まで減らせました(与えられたサンプルによる見積りによる)。ニュースの至急電のスピードを語るときは、この点を要因として考えなければなりません(計算するときは通常の英語のつづり方を基にするので)。フィリップスコードのいくつかは、アマチュアでも使われています。

略語を使ううえで重要なことは、受信側のオペレーターにとってすぐに分かるものでなければならないということです。これは、アマチュアの間や日常で使われている普通の言葉でなければならないということを意味しています。私たちは常識的なものを使わなければなりませんし、使いすぎや過剰な使用はいけません。理解できるようなものを使うよう注意するべきです。

27を略語表の例として参照してください。
 
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