無線電信の巧みと技

William G.Pierpont N0HFF

-改訂2版-

第5章 -上達のための練習

 


 
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約15wpm(15語毎分)の実力に達したらモールス符号はコミュニケーションの便利な道具になっているはずです:あなたは一人のCWオペレータになっているでしょう。

しかしながら、それはかなり遅い、しかし、あなたは今、いくらか熟達の満足を感じるようになってきていて、もう少し高速度を扱うことでコミュニケーションスキルを大いに上達できることがわかります。 ではどうすればよいのでしょうか。―― 単なる繰り返しではだめです。 知的で方向性のある練習が必要です――正しい練習方法を採用することが重要です。 それをこれから議論します。
 

 

どこまで上達したいですか?


議論を進めるため、ここでは進度を独断的に4段階に分類しました。 それぞれ次のように呼ぶことにします:

それぞれのステージにおいて、そこまで到達すればもうそれ以上必要無いと満足できるいわゆる最終目標として上記4種類のレベルをあげました。

どの段階を最終目標にするかを決めるのはあなたです。技能の進度は車の「ギアチェンジ」で例えれば、文字(character)を認識する段階の「ローギア」から、短い単語(word)や頻繁に使う音節(syllable)を音の単位で認識できるレベルの「セカンドギア」に切り替えて、スペリングを意識しながらの受信から解き放たれ、単語を単語として送り受けすることに楽しさを感じるようになり、最後の「オーバードライブ」にもなれば、稀な単語や固有名詞を除いて殆どスペリングの意識をすること無く、どの単語を使ったのか正確には意識しないで、主に話の内容(idea)のみ意識するようになります。

一層早い速度に到達することは、あなたが思うよりも容易であることが分かるでしょう。 それは、大抵決断の問題です、適切なアプローチと実践と、あなたが既に知っていることを構築することです。上達の度合いは大抵あなたがどう取り組むかにかかっています、そして投資した時間の二乗に比例します。さて、あなたはどのレベルまで達したいと望んでいますか?(思い出してください、重要なのはスピードではなく正確さです。私たちはコミュニケートしたい。送信中、コピー中に拘わらず、ミステークによって時間をロスしてしまいます。)ですから、一度に1ステップづつものにして、満足したら止めましょう。 本を読むとき、"bites"「一区切り」が大きければ大きいほど、読んで理解するのも早くなります。 電信も同様です:一度にどれだけ取り込んで直ちに"unit"「単位」として知覚できるか、その「単位」がいかに大きいか。 これは、どれだけ早く符号が受信できるかを決定します。 意味を成すように、迅速な認識ができるように、一貫したグルーピングをすることです。 なにか意味をなさないものがあると、スピードはダウンします。

 

ワード認識は熟達オペレータを作ります。熟達した電信オペレーターの実際の「アルファベット」は大部分ワードの一塊であり;それが彼にとっては「言語」そのものであり、話すこと・聞くこと と同等に容易に解釈できるものです。

(この開発の助けとして 「練習の種類」  を参照)    あんまり繰り返し言えませんが:熟練したオペレーターは短点と長点を聞きません、文字、単語、文章のみを聞きます。リラックスエンジョイ、誰かができるなら自分にもできると自分自身に言い聞かせる必要があります。どうやって? 例えばモールス符号の「プロ」は完全にリラックスしています:たとえ何か他のことをしていても読み取りコピーできることがわかっているからです。彼はそれを話し言葉のように聞き、必要ならあとからでも十分記述できるくらい記憶しておくことができます。彼は緊張してしまうことがありません。かれはどんな速度をモノにしていようがよいモデルです。もしそのような人を知っているなら彼の真似をしましょう、練習を進めながら自分が進歩していくことに挑戦することを楽しんでリラックスを忘れないようにしましょう。もしそのような熟練オペレーターを知らなければ、優れた役者やバイオリン奏者、ピアニスト、テニス選手などを見てみましょう。 彼らがいかにリラックスしてそれをこなしているか見てください。

練習する経験を楽しんでください。各練習期間を楽しくしましょう。 のんきに、あせらず、心配しない態度で学習プロセスに取り組んでいる人たちの進歩が一番早いものです。さあ、あなたの最終目標にしばられたり、がんばりすぎないでください、それは上達には逆効果です。進むのは一度に1ステップだけにしておきましょう。無意識の抵抗をどっかに追いやる必要があり、そして潜在意識が無理無く機能するようにする必要があります。意識してしまうことをどれだけ追いやってしまうか、どれだけそれが面白いか、によってわれわれはよりうまくなれます。誰かがこう書いています:「私がフレッシュでそれに真正面から対峙していたとき

[つまり、身構えてあまりにも張りきりすぎていた]、符号の速さは本当に悪かった。しかし一旦それを追いやったら最良の結果を出すことができた。」( 第2章 参照)

あるハム(かれは医者)が書いています:「モールスによるコミュニケーションは特別なものです。ヘッドフォーンをして聞いているとき、いつも目を閉じます、すると私は声を出したり聞いたりしないでコミュニケーションをしていることを感じます。たくさん話したり聞いたりした日はうれしい。 メッセージは囁きにも似て実際に耳にする会話などよりもずっと記憶に残るものがあります。私はもう言いたいことを形にしないで直接符号に変換して送信する指先に伝えます。 それは従来の言語中枢からくるものとフィーリングが異なります。 思考がじかに現れたーーリラックスしたコミュニケーションなのです。」
 

各練習の期間を前進のための1ステップにしよう


いっそう早い速度を目指すとき、その上達は概ねあなた自身に左右されます。結果はあなた次第です。しかしながら、ここに説明する原理は、ビギナーからベテランまであらゆるレベルを指導する者に完全に適用します。各セッションで何がしか得るものがあったと感じることができるようにあなたの練習期間を計画してみてください。 積極的な態度を保つように。 どこまで到達したのかわかるように。 良き初期段階の先生を真似ましょう、その先生は生徒にどのように符号の一かじり、一カタマリが単語となって認識できるのか教えてくれます、また文脈から何が抜けているか、間違いからどう学ぶかーーもっと練習が必要なことをーー次回はどう改善すればよいかを示してくれます。

自分自身を勇気付けてあきらめないで続けましょう。 あなたは成功できることを知りましょう。 成功を映像化して勇気付けましょう。 各練習セッションの後にちょっとした褒美を与えるのも名案です。 スピードを上げる訓練は、あまり頑張ってやり過ぎない、長時間続けないで、ほんの1分か2分くらいにします。 あなたが心地よいと感じる速さよりも早いスピードで練習を始めるのがベストです、そうすることであなたのエネルギーを最初に高めて(音声パターンを一層すばやく認識するため)から少しスピードを落としてより心地よいレートにします。 この方法は自分の上達――成長を見ることを可能にします。 記録をつけておくと自分の進歩の過程がわかります。

練習時間が終わっても学習はすぐには終わりません――練習時間後でもリラックスしたりまったく違ったほかのことをしていると、精神は練習したことの消化を続けています。 ですから、学習効果を最大にするために練習の間隔は十分空けましょう。
 


 

練習の種類


いろんな種類の訓練があります: 

それぞれについて考察してみましょう:

聞き取り訓練

            良い符号を聞いて、聞いて聞きまくる。  計画した練習とともにあらゆる機会に聞くことをします。ラジオ(無線)を聞いたり、テープやコンピューターの練習プログラムを聞きます。  精神的に意識してやる作業をしていないときはとにかく聞き取り練習をする:昼食中でも、運転中でも――聞いてそれを楽しむ。いろんな種類の聞き取りがあります――第一に、内容が完全にあるいはほとんど全て理解できるスピードで聞き取る;次に、全体の75%程度が理解できる早さを聞き取る;そして最後は、文字、単語を断片的に理解できる程早いスピードを聞き取るといったぐあいです。

いずれも貴重な聞き取り練習です。「容易」なスピードでの聞き取りの目的は2つあります。わたしたちは必死になって格闘するようなことなく、普段の読み・語りのように気持ち良くモールス符号を感じたい。そのため。 それと、心地よくなるために普段の言葉、表現がどのように聞こえるのか慣れるためです。 (自らQSOを行う――お空あるいは有線を通して――のも一つの方法で、(レベルアップしようという)強いモチベーション(刺激・意欲)を与えます。) 私たちは、ゆっくりから取り扱える限界スピードまで、いろんなスピードにおいても心地よさを感じる必要があります。このような広い範囲を聞くことは早く慣れる意味で有用です。 これは、第二のゴールです。 でも、気楽にやりましょう。

精神を平静にしてとても早い符号を聞いてみると、文字や単語がすぐに溢れ出して我々に向かってくる、それを聞こうとしなさい。それを聞き取りたいと欲する。これが精神を刺激します。 それらを「精神的な黒板」の上に見ることを訓練しましょう。(単語をつづる早さには限界があります) 各文字を意識的に認識しようという気持ちを解き放ちましょう。 「意気込み」(意識的に認識しようという試み)が少ない方が、上達が早いです。 つまり、意識による干渉や抑制を受けることなしに、潜在意識をして自動的に精神を動かすということです。

少し早すぎて全部取れないくらいのものでもあらゆる機会を見つけて聞く練習をしてください。精神的注意を要求されることをしていない限り、聞いて、聞いて、聞きまくる。 あなたの耳を良い符号で一杯に満たしましょう。決して頑張りすぎないこと:常にリラックス。――精神は奇妙なもので――普段使っているのよりゆっくりでOKとならばリラックスして、とても太刀打ちできないレベルを要求されると緊張してしまうものです。符号を言語と同じように訓練するポイントは「慣れ親しむ」ことです――それは繰り返し練習を意味します。 つまり、短点と長点でどうやっているかなんて考えることなく、それが自然になるように訓練するということです。 最高の技能は耳で読めるようになることです。まるで会話しているように表現されているアイデアのみに気がついている状態です。それが、最上級のコミュニケーションです。

単語認識訓練 

    予測と遅れ認知は関連があるか? 前にも触れたように、一個の文字をそれが完全に送り終わる前に識別しようとしてはなりません、特に長い文字の場合はそれをしないこと。ここでは単語の認識についても同様と申し上げます。単語が長かったり複合された単語の場合、完全に送り終わるまで結論に飛躍してしまわないようにしましょう。複合語の例題として例えば"wayside, mockingbird, chairman, salesman, notebook, lifetime, customhouse, morningglory, hereabouts, doorbell, nevertheless watermelon, household"などです。それに接尾辞の付いている次のような単語、 "cheerful, personable, fellowship. finality, dictionary, mechanically, characteristic"など、または最初の部分だけで独立した意味を持つ単語だが全体では違う意味になるもの、例えば  "axiom, category,  handicap,  climax,  magnificent "などです。

書き取り訓練

   容易なスピードで書き取りするのもまあ良いですが、能力向上のためにはあまり価値はありません。 向上のためには一回一分くらいの手短な区切りで、内容の50~75%程度がわかる早さの練習を続けることです。――これはちょっと早すぎるというスピード――把握できた内容を書いてその他は無視する早さです。 音声パターンを直ちに認識できなければ、それは飛ばしましょう、スペースを空けて先に進みましょう。―― けっして無理に答えを出そうとして立ち止まってはなりません、なぜならもしそれをしたら次に来る内容をミスしてしまうからです。 この方法につまづかないで下さい。即座に認識できたものだけコピーして他は無視することに徹してください。 思い出しましょう、私たちは練習をしているのであって――間違いなんてなんでも無いのです――今はまだ修行中なんですから。 そういう条件をわきまえてやってみましょう。 次第に開いていた穴が埋まって行き、完全になってきます、そして緊張も解けてきます。

たとえばっちりコピーしようと身構えていても、しばしばミスをし、それでもたいした問題にはなりません。もし関心があるなら、その構成からギャップはしばしば埋めることができます。 満足な速度に上達した後は、つかれるまでコピーしてそれでもやめないでコピーすると良い練習になります。意識した精神状態がなくなって推測がなくなり、潜在意識を呼び起こしてくれます。 そして、精神的緊張感は脇にいって、どんどん何ページでもコピーできるようになり、にもかかわらずその中の一文章も気にならないでしょう。

指導者の方へ:時として生徒にスピードは実際より遅いと思わせることが最良と考えられます。 そうやって生徒は上達してとにかくコピーができるようになる!。

15-20語毎分以上の暗語練習はやる価値が疑わしい。 それは単語認識という重要なセンスの開発を妨げてしまう傾向があります。そのセンスはモールス符号をコミュニケーションの道具として普通に使うために開発しなければならないものです。単語のスペルを逆さまにしての練習は単なる暗語に代わる良い方法です:それは予測を排除しつつ、通常の文字配分を得られ、単語を扱っているような感覚を持て、全く無意味でもない。 特殊文字や区別的発音符を除いた外国語のテキストもまた利用価値があります。

送信訓練

-訓練に電鍵を使うこと「良い符号を送信することは受信することより恵まれている(むつかしい)。」たいていのCWオペレーターはスピードよりも符号の質で評価される。了解度は第一の要求事項です。それを決めるのは電鍵を操る送信者です。 もし送信符号が明瞭でなければ、まず第一に符号を送信する目的は何なんでしょう。 大抵の人は送信は受信よりも簡単だと考えます。これは驚くことではありません、なぜなら送信する前に何をこれから送信するのか事前に分かっているのですから。 しかしながら、もし私たちが正確な送信習慣を構築できていなければ、そういうばかなことは言えません。だらしのないCWを送っていると言い訳ができません。急いでいると、馴染みのある単語の文字間スペースあるいは単語と単語のスペースを短くあるいは無くしてしまう傾向があるようです-これは受信を大変困難にしてしまいます。 (もし、空電や混信があればなおさらです) そして――もし受信できる速さより早く送信できると考えていると、コピーすることが大変難しい符号を送信することが往々にあります。

思い起こしてください符号を学習していようと使っていようと繰り返しやっているのは練習です。符号を使うときは悪い癖が付かないように送信符号の品質を監視する必要があります。 大抵の悪い癖は良いタイミングから気がつかないうちに生じるちょっとしたズレに起因するものと考えられます。ブザーを練習に使うのは避けましょう、符号の立ち上がりが遅れ悪い送信癖が付きます。 発信機を使いましょう。

メンタル訓練

  普段の練習期間の合間に考えることは価値ある練習の一つになります。 それはあなたが構築しようとしている技能のことを考えることと技能そのものを考えることです。 一つのやり方は、道路標識やナンバープレートや印刷物を目にしたら自分の中で符号を考えます。口笛で吹いてみたりトン・ツーと声に出してみたりするとより効果的です。もう一つの価値あるメンタル訓練の形は、第2章に記述したように符号を使ってあなた自身を描写することです。

 

オンエア訓練:「実践的聞き取り」と交信訓練。 

免許を取得したならオンエアすることに躊躇しないでください。 

もし、しくじったらだれでも最初の数QSOは多かれ少なかれ「失敗」をするのだと言い聞かせましょう。とちりながらでも、ぐずぐず手間取りながらでもできるかぎり気楽にやりましょう。

もし間違えたら、落ち着いて、重要と思われる部分を繰り返してもらいましょう。もし理解できない略語またはワード(たぶん送信者が間違ってスペルした)に手間取ったら、そのへまを一笑に付しましょう。とにかく快適になるようにすることです。失敗したところで職を失うわけではありません
弱い局を混信や空電の中から拾い上げるのはそれなり修得を要する技能です。特性のよいIFあるいはオーディオフィルターがそれを助けてくれます。もしそれがあれば、それを使って練習しましょう。空電の重なりによって通信文が一部抜けてしまうことも別の問題です:フィルターはここでもしばしば助けになりますが、20~25wpm程度までのスピードを使うと文字が空電の重なりの間に挟まれてなくなってしまうことがあります。これは、速度を上げる一つの動機となります。

 

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