無線電信の巧みと技

William G. Pierpont N0HFF

-改訂2版-

第3章 基礎を身につける‐パート3

 

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自習用に作られた録音教材のほとんどは次のように各文字を紹介します。「“トツー”と聞こえたら、その度になるべく早く“A”と唱えてください。そして新しい文字が紹介される度に同様な方法で練習してください」。例えば、最初の文字がFの場合は次のように練習します。録音テープをかけると、“トトツート”と音がした後、“F(エフ)”と発音されます。そしてまた、“トトツート”、“F(エフ)”と続きます。この後、モールス符号のFが何回も繰り返されるので、今度は生徒がその度に“F(エフ)”と唱えるのです。こうして一文字の練習が終わり、次の文字へ進むことになります。

講師について習う場合でも、一人で習う場合でも、その文字に十分慣れるまで繰り返すことが重要です。大抵の場合、生徒の反応をみれば、何回繰り返す必要があるか講師はすぐに判断することができます。独学の場合は、ひとつひとつの文字を多めに繰り返してから、次の新しい文字へと進むのが良いでしょう。しかし、むやみに繰り返えすだけではいけません。講師によっては1文字に対して、最大1224回位まで繰り返した後、次の文字へ進みます。電信の技術はこの基本練習の上に積み重ねられたものなので、この基本練習は確実にしっかりと行う必要があります。練習を繰り返すことにより確かなものになるのです。賢く実行してください。集中力を保ちながら何度も繰り返すことによって、高度な技が身につきます。刺激とそれに対する反応が非常に強く関連づけられ、刺激を受けると反射的に反応するからです。

このような初期段階のレッスンにおいては“間違い探し”のようなゲームが役に立つかも知れません。それは次のようなものです。同じ文字が連続して5,6回送られてきますが、途中のどこかに異なった文字が挿入されるのです。生徒たちは(書くことはしないで、ただ聞いているのですが)、“異なった”文字が聞こえたら手を上げるのです。このゲームを数分やることにより、授業も盛り上がり、バラエティもひろがります。文字を短い単語に替えてもうまくいくでしょう。

生徒と講師が1対1の場合、生徒に合わせて教え方を毎回工夫することができるならば、モールス符号の音とリズムに対する強い第一印象を与えることができます。そして、生徒に苦手なところがあれば、そこを集中して練習することができます。また、講師は電鍵の使い方を他の授業形態の場合よりも早く安全に生徒に教えることができます。その学習効果を高めるキャラクタエコー方法とは次のようなものです。

  1. 講師は、「文字を送信するから、聞きなさい・・」と言います。そして符号を送り、送った後にその符号の文字を声に出して言います。「さあ、これから文字を何度も送りますから、私が送り終える度にできるだけ早く送った文字を言いなさい」。
  2. 続いて、「今度は私が送り終える度になるべく早く受信した文字を書きなさい」。
  3. 最後に「今度は電鍵を使います。私が送信したら、続けて同じ符号を送りなさい。そして、送る時にその符号の文字を声に出して言いなさい」。上記1,2のステップにおいて、1つの文字を数多く繰り返し、正確なタイミングのフィーリングをしっかり掴んでからステップ3へ進むことが大切です。講師は正確に送ることの重要性を生徒に強く言い聞かせます。

独学で練習している人達には、非常に応用性があるコンピュータプログラムに加えて、良質のモールス符号練習用カセットテープや学習教材が数多くあります。例えば、文字が送信されるとその瞬間にその文字をスクリーンへ映し出すことができるコンピュータプログラムがあります。このプログラムにより学習者は文字を精神的に“見”るよう励まされるのです。(第18章を参照のこと)

もし、同じように聞こえる文字があると感じる生徒がいたら、その文字を交互に何回か送って“違い”を際立たせます。大抵は5回未満のレッスンでアルファベットと数字が全て終わるでしょう。学習を興味深く面白いものにするため、そして、退屈感または必要以上の緊張を避けるためにも、可能な限りあらゆる方法が試されるべきです。ある講師は次のように言っています。「私が黒板に単語を書き、そして生徒たちがその単語のモールス符号をいっしょに声に出します。それは合唱団を指揮しているようで、誰もがモールスの練習を楽しく感じている愉快なクラスなのです」。

もし受信の書き取りを数多くしたいと考えているならば、タイプライターを使って始めた方が、鉛筆の場合と比較して、符号と脳とタイプライターキーの間の関係がより強くなるという利点があります。この学習段階が完了するときには、基礎技術、つまり音を聞いてすぐさまその文字を認識する能力が確立されているはずです。そしてスピードに関しては少なくとも5~6WPMに達しているはずです。この段階の生徒たちは、普通の単語や文を使ってモールスの練習をするために必要とされるものをすべて身に付けていて、練習を重ねることでスピードを速め自信を深めることができる状態なのです。ワード間の間隔を狭め始めていけば全体の受信速度が上がっていくでしょう。

学習する過程において、上達しているという感覚を生徒に感じさせるため、ありとあらゆる努力がなされるべきです。そうすることで、より簡単にそしてより早く学べます。生徒たちに達成感を味わせましょう。間違いには目をつぶり、上手くいったら誉めてあげるのです。ゴールは全ての文字を瞬間的に認識することなのです。これが次の段階の練習により我々がたどり着く先なのです。もし、今の段階で瞬時に認識できない文字があるならば、前に戻り、その文字を聞いて瞬時に識別できるまで練習しなさい。こうする方が後々のことを考えると効率的です。

練習する文字の順番については、一般に公開されてきているものとして以下のようなものがあります。

50ETAR-SLUQJ-HONCV-IBYP-WKZM-DXFG
FGHMJRU-BDKNTVY-CEILOS-APQXZW
ETAIMN-SODRCU-KPHGWL-QHFY-ZVXJ
EISH-TMO-ANWG-DUVJB-RKLF-PXZCYQ
FKBQTCZHWXMDYUPAJOERSGNLVI
ETIMSOH-AWUJVF-CGKQFZ-RYLBXDN
AEIOU-最初に母音、それからTNRSDLHのようなもっとも頻繁に使われる子音。こうすることにより、最初に習った子音を使って数多くの単語が練習できます。

注意点:講師は次の新しい練習段階へ進む際に、生徒が自分に何が期待されているか分かるよう、次の練習の正確な内容とその理由を生徒に説明すべきです。1895年にある心理学者達が電信の熟練者達にこう尋ねました。「だんだんと上達していく過程で、何に焦点が向けられるのでしょうか?」。彼らの答えは次のようなものでした。

  1. 最初は夢中で文字を聞こうとします。
  2. 次に単語を探そうとします。
  3. 少し経ち、ある程度のオペレータになると、単語自体にはそんなにとらわれなくなり、まとまった単語、フレーズや短い文さえも、ひとまとめとして取れるようになります。
  4. そして、正真正銘のエキスパートになると、意識せずに完璧に理解するので符号の細部については実質的に全く気を配りません。気持ちは別のところにあっても、電文の意味あるいは内容をコピーすることに精神を集中するのです。
     

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