無線電信の巧みと技

William G.Pierpont N0HFF

-改訂2版-

第14章 「耳」

 

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「耳」は我々の全聴覚、判断システム、聞いたことを認識、解釈する、複雑で、なおかつ精巧な完成されたシステム:耳、神経、心を意味します。

耳それ自体、広範囲の音の強弱に敏感ですが、低音量の時に最も感度と選択度を発揮します。聞きやすい音量に調整することが、聴覚を守り、性能を上げることとなります。耳は最初に聞いた音に反応します。
 

信号のピッチ
耳はピッチ
(音階)に対して敏感です。 ピッチを正確に聞き取れる人(絶対音階)はほとんどいませんが、大部分の人はピッチの変化、違いを難なく見つけ出すことが出来ます。 実際に音痴と言われる人はそう多くないように思えます。CWに通常使用されるピッチ幅は、500から1000ヘルツの間である。混信の中で最も聞き取りやすいのは500ヘルツ付近と言う人もいます。

深刻な聴覚障害を持つ人、つまり、あるピッチが聞き取れなかったり、スペースがあるべきところで、耳が鳴り、コード信号を聞き分けることが出来ない人は、より低いピッチ(300から400ヘルツ)の方が聞き取れる場合もあります。 ブザー音を使用したり、音にホワイトノイズが加わったりすると正確に聞き取れなくなります。(注:教えるのに実際のブザーを使用することは避けるべきです。音が鳴り出すのにディレーを生じ、タイミングを損なうためです。)

CW音の狭いバンド幅の音質はある人々にとっては、不快に響き、単調で、楽しくないものとなりかねません。ピッチ幅を狭くすればするほど、不満がつのります。 人はより複雑な音のパターンの方が退屈せず、楽しくさえあります。 しかしながら、混信がある時は複雑な音は障害となります。
 

音の持続時間に対する感度
リズムの認識においては、人間の耳は広範囲の音の持続時間に適応することができます。しかし、短い持続時間の音声の認識は我々の苦手とする部分です。それは多分音声の継続性の為で(視覚の継続性と同じように)、むしろ同等の長さの無音の方がかなりよく判断できます。(これはおそらく、リズムのパターンが複雑なアメリカンモールスで電信音響器(サウンダー)が有効に働く理由です。)このように、もしスペース(無音)に注意を払えば、マーク(長短点)も自然と配慮されます。 短点と長点の区別が難しいという学生もいます(通常、1対3の比率)。 このような人達には最初は長点を短点の3倍から4倍に長く拡大すると良いかもしれません。(おもしろいことに、アメリカンモールスでは長点が、長い長点のLやゼロと対照的に、短くなる傾向があります。これは音響器の性質によるものかもしれません。)

音の持続に対する意識した認識と、脳内の無意識の認識は区別しなければならないそれなりの理由があります。その一つに、長短点が音として聞こえないほど高速の符号を正確に受信するオペレータの経験があります。第11章参照。
 

「耳」はへたな送信も理解する
よく空で聞かされるめちゃくちゃな送信でも「耳」は理解できるという注目に値する能力を秘めています。
「耳」は寛容な器官なのです。つまり、紙に書き記すならば如実に現れるような際立った欠点を持つ符号でも、人間は精神的な適応力で、すぐにそれを認識し、読解できるようになります。リズミカルなパターンでの音の持続であれば、広範囲に変化しても、認識できます。しかしながら、文字、単語間のスペースは認識の為に非常に重要な要素です。

比率(1対3)の多少の崩れによって、聞き取れなくなるということはありません。その場合、短点と長点が同じ位の長さに近づくこと(良く混乱する)よりも、短点が長点に比べて短すぎる方が認識はしやすいものです。機械受信では受信できないこのような符号でも「耳」なら読むことができます。
 

訓練された「耳」は信号を区別できる
通常の「耳」は近接した音程の信号をある程度分離できるようになります。多くの人にとって「耳と脳」によるフィルターは50から100Hzの幅に狭めることが出来ます。もし、3KHzのノイズバンド幅を持つ受信機を50Hzに狭めることができればフィルターなしの時に比べ約18dB低いCW信号を受信できる計算になります。しかしながら、あまり狭すぎるものよりも約500Hz程度のバンド幅の方がチューニングが容易になり、「耳‐脳」フィルターの自由度も広がります。

非常に狭い受信フィルターを必要とするのは状況がよほど厳しいときのみと考えましょう‐狭いフィルターの使用は少しの周波数のシフトなどで信号を見失ってしまうリスクがあります。「6層にも積み重なった殺人的なQRMの中から目的信号を掘り起こすアマチュアの耳は、機械ではまねのできない最も優れたものである」といわれています。
 

ヘッドフォーンはスピーカーより優れている
ヘッドフォーンはスピーカーに比較して、受信した信号のパワーを効果的に2倍にします。ヘッドフォンのマフは外来からのノイズを防ぎ、弱い音を強めます。ヘッドフォーンの双方で180度位相がシフトしたノイズを聞くと脳内でノイズはキャンセルされ、信号対雑音比が増加できます。雑音防止用の耳栓をヘッドフォン、フィルター、と共に使用することも不要なノイズを軽減する一助になります。
 

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