William G.Pierpont N0HFF
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改訂2版-第18章 モールス符号の習得と技量向上の為のコンピュータプログラムとテープについて
モールス符号の習得と技量の向上に適した代表的なコンピュータのプログラムとテープを紹介します。但しそれらは常に改良(あるいは改悪)が施されて内容が変化しますし、或いはある日突然世の中から消え失せてしまうモノもあるため、それらをここで紹介すること自体少しリスキーな事、またそれらを事細かく紹介することは不可能であくまでも概要説明である事、この二点を予め心に留めておいて下さい。それらの総てに共通する機能として、モールス符号のトーン高低とスピード調整が出来、それをコンピュータのスピーカに出力します。また多くのものが符号送信中でもスピードを変更でき、表示画面オプション設定や印刷機能、オンスクリーンのヘルプ機能等を持ちユーザの好みに設定する事が出来ます。なお本文中で記す
"フリーウエア"とは商業ベースでのプログラム製品ではなく、ディスケットによる配布サービスを必要とする場合以外は、基本的に無償で提供されるプログラムの事を指します。また特別な注意が無い場合、IBMコンパチブルのPC上で動作するプログラムであることを示しています。MORSE UNIVERSITY
コモドールC-64コンピュータ用の先進的で優れたアプリケーションプログラム(有料50$)で、カートリッジスロットに接続して使用しマニュアルも付属します。下記のような内容が盛り込まれています。
特徴としては
1)20wpmの符号速度、文字間隔3秒のFarnsworth文字で符号習得レッスンが行われ、54の基本レッスンで構成されます。さらに必要に応じて7つのオプションレッスンでドイツ語、スペイン語、スエーデン語の符号学習も行えます。1日あたり20分のレッスンを行うよう推奨していて、レッスン開始から1ヶ月で20WPMのスピードのモールス符号を受信できる能力が楽しみながら得られる様になっています。また幾つかのオプションが使えます。
2)上級レッスンでは符号送出の開始時と終了時の速度をプログラム出来るランダムな順序の文字を送出し、符号速度(5WPMから99WPMまで)、練習で現れる異なる文字の数(最大45文字まで)とそのグループのサイズ、文字間隔、練習時間(最長1時間まで)等々が調節できます。
SUPERMORSE by Lee Murrah
このプログラムは非常に様々な機能が凝縮されていてまさに統合プログラムです。学習ステップは、まず学習フェーズで符号を憶え、速度構築フェーズで練習素材を用いた色々なレッスンが提供されます。そしてエンハンスフェーズではユーザが望む技能を最大限引き伸ばします。更に測定フェーズではこのプログラムに予め備えられたテストあるいはユーザが設定したテストによってユーザが習得した技能の度合いを測定します。そして最後にオペレートフェーズへと進みます。 インタラクティブな機能が各所に備わっています。
MORSEMAN+ by Robin Gist NE4L/ZF2PM
これは、文字を教えるチュートリアルモジュール、能力を伸ばすトレーナーモジュール、学習度合いを評価するテスト、送信された符号を正確に認識する為のインタラクティブモード等を備えています。またそれぞれのモード、モジュールには2,3種類の練習を備えています。
GTE Morse Tutor.
このプログラムのVer2.1ではIBM PC,XT,ASTならびに同等のPCで動作します(有料$20)。最初の11レッスンは基本的な符号習得のレッスンで前のレッスンまでに覚えた文字と新しく覚える文字を混在させて復習も兼ねながら練習します。第12レッスンでは1回最大10分までのランダムQSOの練習を行います。ユーザはFarnsworthで50WPM以上までの速度を指定できます。なお現時点でこのプログラムは非商業ベース(無料)で利用できる事も特徴です。
The Mill.
James S. Farrior (W4FOK)によって長年開発されてきた"The Mill"の最新版は"MILL98a"です。数あるフリーウェアプログラムの中でも古典的アメリカンモールスと国際符号の両方を備えている点では独創的なプログラムです。正規の電信音響機とその出力を真似、機械的に規則正しい国際コードとは異なる古き良き時代のモールスオペレータ達の耳に自然に馴染む程度の環境変動特性(20章参照)を組み込むため、ジムは文字の組み合わせを調整する機能を盛込むのに長い年月を費やしています。
このプログラムには基本的な学習の為のセクションとユーザが指定するファイルを送信する為のセクション、それからユーザがファイルを生成する為のセクションで構成されています。もうひとつの特徴は他の適したプログラムの何れかを用いて送信機のコントロールにコンピュータを用いていることです。それは入念に設計された洗練されたプログラムで、ジムは更に改良をし続けていています。なおプログラムはQBasicによって記述されています。このプログラムの入手はJames S.Farrior W4FOK (1332 Harrison Point Trail, Fernandina Beach FL, 32034)、Tony Smith G4FAI (13 Morley Road, Sheringham, Norfolk NR26 8JE England)からダウンロード可能です
The MORSE TUTOR PROGRAM
このプログラムは大学教授でありまた長年モールス符号教習の指導員でもあるニュージーランドのGary E. J. Bold(ZL1AN)によって開発された国際モールスのための教習プログラムです。GW-BASICで書かれていてユーザ自身が改造するのも簡単に出来るでしょう。他のほとんどのプログラムの様に幾つかの独創的な特徴を持ちます。プログラムの各部分は自給自足のプログラムです。"Teach"なる教習課程ではユーザの応答の正誤率に応じて教え方をコントロールしてくれます。"Randam"なる練習プログラムでは様々なソース或いは文字の集合の符号群が用いられます。符号送信プログラムでは書取り或いは読取りに用いられるASCIIファイルを送信に用います。キーボードプログラムではキーボードから打ち込まれたキーの文字を送信します。ユーザの符号の送信品質の解析の為にキー入力が提供される面白いモジュールを持っています。
このほかにも様々なフリーウエアや商用プログラムがあります。一部のPCプログラマは自分達の必要に応じてプログラムを作成、改造することができます。教習中に教習生に対する即応或いは遅延型の途方もない量のヘルプ機能など多くの会話型プログラムが利用できます。また学習が進んだユーザに対しては実際のOnAir状態の様にプログラム上で仮想のQSOを行えるでしょう。本当にこのプログラムが秘める可能性は高いですね。最後に実際に受信した符号を読み取ることの出来るデバイスとプログラムが備わっています。ただしそれは単なる機械ですから符号タイミングが合理的で正確な符号信号である場合にのみ読み取ることができます。これを利用するユーザは自身の送信符号の正確さをテストすることが出来るでしょう。しかしそれは実際に耳で符号を受信する事の代用として用いるにはあまりふさわしくありません。
学習と他の目的のための符号テープ
Twin Oaks Assciates社(メンタルヘルス専門業者)からは符号練習プログラムが提供されていました。これはカセットと教習本を用いたプログラムで、送られて来た符号を頭の中で、あるいは言葉に出して無意識に認知出来るようにするための「耳」による学習に重点がおかれ、3段階の教習コースが設定されています。最初のコースでは5WPM以上のスピードでアルファベットを認識する事です。それにはまず最初のテープ面(A面)を何も書き写さず認識できなかった符号があったとしても聴き飛ばして巻戻すことをしないでテープの最初から最後まで”通し”で聴いて練習します。このとき最初に各アルファベットの符号が送られた後直ちに続けてそのアルファベットをナレータが読み上げます。そしてテープの裏面(B面)ではA面で送られた同じ内容の符号がナレータ無しで送られます。これは送られた符号を書き取る事を併行しないで素早く脳と耳とを連携させて認識する訓練となります。1巻目のテープを何不自由無くマスターできたなら二巻目以降へと進めて行き全部で6巻まで練習します。1巻目のテープではE,T,I,A,M,N等の短点長点それぞれ1つずつ組み合わさった二つの要素からなる符号で練習文が構成されています。それ以降のテープでは1つずつ符号要素が増えた文字が練習に加えられて行き5巻目のテープでは数字と句読点の符号まで教導されます。1日当たりの練習時間は30分に設定されています。教習ガイドには練習方法と使用理論が詳しく説明され、それぞれ13WPMと20WPM以上の能力が身につく教習内容になっています。
25章で記しましたが、過去においてInstructograph社とTeleplex社は商業オペレータとアマチュアに向けてモールス符号練習に用いられる穿孔/インク紙テープ機器のメーカとしてよく知られた会社でした。当時プロの世界ではBoehmインクテープとKleinschmidt穿孔紙テープが多く使われていました。プロの世界では多くの場合高速で伝送されるのですが、それでもモールス符号の練習にこれらの機器がよく用いられたこともあって敢えてここで少し紹介します。
同じような機器は第二次世界大戦中
Ted McElroy'sカンパニーでも製造されました。これらの機器では送信に備えて予めオペレータがテープを用意しておき、タイプライタキーボード或いは特製の3つのキーを持つデバイスで送信しました。機器の状態が良ければ1分あたり数百ワードに達するほどの送信速度でも記録することができました。受信端末では入力された信号を正しくインク或いは穿孔で紙テープ上に再生しました。受信するオペレータはテープに印字された順に符号を単語或いはフレーズ毎に解読出来るように訓練されていたので、一目でテープに記録された概要を把握し軽快な速度でタイプライタにその内容を記録する様にしながら読み取れたでしょう。60~70WPMのタイピング速度はごく一般的な速度だったと思えます。McElroyカンパニーでは自社の機器を用いた際これらの技能を確立するための資料を準備しそのプロモートもしていました。