2021 A1 CLUB 非常通信訓練 
【はじめに】

非常通信では、速やかに、かつ、正確に情報を伝達する必要がある。この点ではCWよりPHONEの方が優れているが、PHONEでは交信不可能な悪コンディションでも、CWならばQRPでQSO可能なことが多々ある。消費電力が少ないことは、利用可能な電源が限られた非常時には重要な利点となる。災害時の非常通信に備えるため、A1 CLUBは今年も非常通信訓練を行った。  

【今回の非常通信訓練の概要】

2021年3月7日(日)に行った非常通信訓練では、被災してインフラ(電力)がダウンした避難所から簡易な無線設備でしかオンエアできない「避難者」と、被災を免れて普段の無線設備からオンエアすることができる「救助者」に分かれた。

避難者はJO1ZZZ, JJ2YAD, JH5YCW, JE7ZFE, JH9YYSの5局、救助者はJR8YPD, JG2GSY, JL3ZLI, JE4YOGの4局。(移動運用の「/#」は略して記載する。)

避難者は予め決められた時間帯に他の避難者を呼び出すリストQSO型式で、救助者はリストQSOをワッチしながらA1-Chat(https://a1club.net/b_chat/chat.cgi)を利用して情報交換をする訓練を行った。シグナル・レポートはreal RSTを交換した。この間、一般局にSWL(レポート)をお願いし、リストQSOの終了後は、一般局にも参加して頂けるオープン型式とした。


【非常通信訓練のタイムスケジュール、および、結果と考察1】

10:00-10:10:
JO1ZZZが他の避難者を順に呼び出した。表1に交換したRST、図1に模式化した伝搬状況を示す。JO1ZZZとJJ2YAD、および、JE7ZFEとのQSOは、RST以外の情報を交換するには、やや苦しい伝搬状態であった。救助者がA1-Chatで交換した情報をもとに考えると(表2)、JO1ZZZからJL3ZLIを経由すれば(図2)、JE7ZFEへ情報を伝達することができたかもしれない(実際には試していない:以下「未実施」と記載)。また、JL3ZLIが得た情報をA1-ChatでJE4YOGと共有すれば(図2)、JE4YOGからJJ2YADへ情報を伝達できた可能性がある(未実施)。


図1 
 
図2



10:10-10:20:
JJ2YADが他の避難者を順に呼び出した。表1に交換したRST、図3に模式化した伝搬状況を示す。JJ2YADとJE7ZFE、および、JH9YYSとのQSOは、RSTの交換がギリギリの伝搬状況であった。救助者が得たA1-Chatの情報によれば(表2)、JJ2YADからJE4YOGへQSOで伝達した情報を、A1-Chatを利用してJR8YPDと共有すれば(図4)、JR8YPDからJH9YYSへQSOで伝達できたものと思われる(未実施)。しかし、JE7ZFEへの情報伝達は困難な状況であった。

 
図3
 
図4




10:20-10:30:
JH5YCWが他の避難者を順に呼び出した。表1に交換したRST、図5に模式化した伝搬状況を示す。この時間帯はコンディションが悪く、JH5YCWとJH9YYSのQSOは成立しなかった。また、救助者を介した情報伝達も困難と考えられた(表2)。

 
図5



10:30-10:40:
JE7ZFEが他の避難者を順に呼び出した。表1に交換したRST、図6に模式化した伝搬状況を示す。JE7ZFEは出力5Wにモービルホイップという究極の簡易設備でオンエアしており、厳しいRSTが並んでいる。唯一RST:519でJE7ZFEを受信できたJG2GSYを中継すれば、図7に示す通り、A1-ChatでJL3ZLIと情報を共有し、さらにJJ2YADとJH5YCWへQSOで情報を伝達できたかもしれない(未実施)。

 
図6
 
図7



10:40-10:50:
JH9YYSが他の避難者を順に呼び出した。表1に交換したRST、図8に模式化した伝搬状況を示す。この時間帯はコンディションが良く、JH9YYSは他の避難者と良好なQSOを成立させた。

 
図8



10:50-11:30:
救助者が避難者、または、他の救助者を呼び出した。誰が誰を呼び出すのか、A1-Chatで互いに指示を出し合ったが、予想していたよりも難しい作業であることが分かった(表4)。実際の災害時には、インフラが整っている救助者が、速やかに、かつ、正確に情報を共有することが重要であると痛感した。

11:30-12:00:
一般局にも参加して頂けるオープン型式とした。


【考察2】

今回の訓練中は、常にコンディションが大きく変化していたため、数分前まで599で入感していた局が、突然NILとなることも多々あった。しかし、バンドが完全に閉じてしまうことはなく、どこかに伝搬経路が開けた地域があった。よって、各エリアに救助者が1局いれば、かなりの確率で避難者の弱いシグナルをコピーすることができると思われた。各局から頂いたSWLレポートも参考にして頂きたい(表5)。


【今後の展望】

非常通信訓練には様々な要素が含まれる。例えば、「いかに簡易な無線設備でオンエアするか」、「どこまで弱いシグナルを受信できるか」、「RST以外の伝聞を正確にコピーできるか」等々、非常通信訓練の目標(目的)は多岐にわたる。良いアイデアをお持ちの各局は、是非ともご提案を賜りたい。


【謝辞】

非常通信訓練の参加局、参加局をコールして頂いた各局、ならびに、SWLレポートをお送り頂いた各局に深謝いたします。