無線電信の巧みと技

William G.Pierpont N0HFF

-改訂2版-

第23章  理解しているか確かめること

 

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創始者達の視点から
私達のメッセージがお互いに交換されず理解されなければコミュニケーションは失敗します。弱い信号、悪いコンディション(空電、混信、フェーディング)などは全て部分的失敗の原因となります。 このような条件下で、電信による通信は音声通信に比較して、そのほとんどのエネルギーを非常に狭い帯域に効果的に集中できるため、非常に優れています。しかし、同じ言葉でコミュニケーションするには時間がかかります。さらに伝播条件のほか単純な誤解からコミュニケーションが部分的に出来ないことがあります。私達はこのようなロスをどうやって最小限に減らすことが出来るでしょうか。創始者達がどのような言葉を使ったのかに焦点をあててみましょう(ここでいう「言葉」には略号と
Q符号も含みます)。
 

フィードバックと冗長性
私達は普段会話しているときにどの様にしゃべるのかについてほとんど気にしません。向かい合って話をするとき、私達は相手のリアクションを通してお互いに理解できているか確認が出来ます。しかし、これが有線あるいは無線で、離れた相手との通信になると、受け手の理解の助けとなる視覚的要素が無くなってしまいます。さらに、電信の場合は、理解の補助となる音声的要素(声の調子や、「あー」とか「あぁ」とか)もありません。概してみっともないブレークインによるやり方が唯一の直接的フィードバックですが、これも結局受け手が問題点を説明するまでの曖昧な中断に過ぎません。

フェーストゥーフェースであろうと離れていようと話をする時に最低限理解に必要な言葉以上の言葉を用いる傾向があります:これを冗長性といいます。冗長性の度合いは個人個人あるいは個々の状況によって変わります。冗長性は聞き手側の理解する内容を増すことになります。

物を書くときは話すときよりも要点をどう表すかについて気を使います。言葉の選び方、用法に注意を払い、読者の誤解を最小限にするために慎重にかつ正確になります。フィードバックが全くないので、それを補うために必要最低限以上の言葉を使う傾向があります。

電信の場合、主に送信時間制限の都合で、通信内容に全く必要の無いと思われる言葉は省略される傾向があります。意思を伝えることが出来る最小限度で考えられた様々な省略法があります。 まず言葉を全部書き出して、そのなかから省いても意味の通る部分を思い切って消していきます。(これは1単語いくらコストがかかるといった場合に特に重要です)

まとめますと:冗長性は適切でより正確な通信の一助になります。つまり我々は通常、お互いに理解しあるために、最小限必要な言葉より多めの言葉を使っています。しかし、電信では「時間」が重要な要素です。単位時間当りの早さは会話ほど早くありません。時間的要素と理解度のバランスをとりながら、発信者はどの言葉を使ってどの部分を省略するかを注意深く重み付けします。さらに、優秀な発信者であれば、伝送中におこるであろう間違いや歪みを予想して効果的な伝送内容を考えます。
 

言葉を繰り返すこと、数えること
我々アマチュアは誤解を最小限にするために何が出来る出でしょうか。一般的な方法は、単に単語あるいは文全体をを繰り返すことです。もっとも重要な部分のみを2、3回繰り返すことも出来ます。(数字はその性質上、理解の補助となる言葉が無いため一番訂正しにくいものです。)

繰り返しの別の形は、受け手側に受信した単語を送信させることです。これをすればほぼ完全です。しかしこの方法は少なくとも2倍の時間がかかってしまいます。

送出単語の数を数える方法は長年商業通信で使われてきました。しかし、商業電信文以外では一般的ではありません。この方法では完全に正確を期す(正確な単語とスペル)ことはできません。
 

冗長性を利口に使う
しばしば誤解を防ぐために短い通信に1、2語付け加えます。例えば、その日あとで再度交信する予定があることを確認するとき、単に
"CUL"と打つ代わりに"CUL this afternoon" または "CUL in pm" と打つことで、「今日」スケジュールがあること、スケジュールをキャンセルしないことが相手により確実に伝わります。コンディションが急激に下がっているとき、こう送信しておけば、その直後交信が途絶えてもこちらの意思が届いている確立は高くなります。

チョットした発信者側の先を読んだ配慮で不慮の誤解を未然に防ぐことが出来る場合があります。特に、コンディションが非常に悪いときに使用する単語や表現には配慮すべきです。
 

受信側で
自問自答します。「それをコピーする(読む)ことができるか?」もしできなければ、「なにが問題なのか。」「私が受信したこの内容で何が改善できるだろうか。」または「私が持っているこの不完全な(garbled transmission)伝文に意味を持たせることができるだろうか。」――「本当の問題は何だろう。」

コミュニケーションに際して、伝送スピードは送信側が直接コントロールできる重要な要素の一つです。早過ぎても遅すぎても受信側で問題となります。受信側のオペレータは送信側にスピードを落としてほしいとか早くしてほしいとかの要望を出さなくてはなりません。至極当然ですが、伝送スピードは受信側オペレータの能力で決まります。

短点のウェイティングを軽くしすぎると、短点の一部を取りそこないます。もしそうなら、送信者はもう少し短点を長く(重く)できますか? 「クリック」をなくすために信号のパルスの角を丸めて整形し過ぎれば、信号が弱々しいものになってしまうことがあります。スピードが速くなると、短点が重過ぎて耳障りになることがあります。これらは全て送信側で部分的に変更できることですが、それを受信側から言わなければなりません。
 

第14章 ""で補助となる物について、特にフィルターの使用について、議論しました。ここでは、オーディオフィルターの条件について考えてみます。目的信号のみを分離して尚且つ分離語の信号が十分判読できるフィルターが求められます。この点に関し、我々は受信機を通過する無線周波数には関心を持ちません、ビートとして出力されるオーディオ信号のみに注目します。

オーディオ信号は次の要素からなります

オーディオ周波数はヘルツまたはサイクル/秒で表現されますが、これに相当する電信の通信速度はボー(bauds)で表現されます。1ボー(baud)は1電信単位(telegraphic element)/ です(いわゆる"unit" 第28章)。ボーはあまり馴染みがありませんので、ここでおさらいをしておきましょう。

最小基本電信単位は「短点」、即ちある長さの「オン」信号です。例えば、
10ボーのレートとは毎秒10の基本電信要素がある(即ち5
c/s または 5Hz)と言う意味で、各要素は10分の1秒の長さで、ボーレートの逆数です。トかツーかを判断するにはその前後に沈黙が必要であることは明白です。沈黙(スペース)の最小単位も同じく1短点です。1短点とそれに続く1スペースが作る方形波は2電信要素の長さに等しく、サイン波の周期と同様に1「サイクル」と呼ばれます。(これを第28章では「10」と現しています。)ある短点の連続はそのサイクル/秒の2倍がボーレートになります。例えば、1秒間25の短点とスペースの連続(10101010..., 50要素)は25Hz、50ボーということになります。このような考え方で、二つの周波数(オーディオ周波数と電信キーイング周波数)を比較します。フィルターに関し、了解度の支配的ファクターは通過帯域幅とビートの中心周波数です。(フィルターの周波数特性カーブの実際の形も重要ですが、それは他の理由です。: 第24章と技術マニュアル参照)

最小のキーイングパルスの形を保つために十分なオーディオ周波数が必要で、そうするために全ての符号要素は明確な始まりと終わりを持ち適切にタイミングをとることになります。これはオーディオの中心周波数(ビートのピッチ)は方形波形を緊密に保つために十分高くしなければなりません。数学的(フーリエ)解析によればオーディオ中心周波数は適切な電信パルスを得るために電信サイクルの約7倍にする必要があります。

単語の分速に関連する方形波周波数と1電信単位時間は、英語の場合、28章のデータから次のように導かれます。

標準的な英語のテキストの場合、1単語あたり49.38要素あります。ここでは簡単の為に50要素を標準として考えます。

もしこの50要素の単語が例えば1秒間で送信されたなら伝送レートは50ボー、または25Hzです。この例ですと、1分では60語送ることになります――60wpmです早いですね。このことから、ボーレートからwpmへの変換はボーレートに60/50を掛ける、つまり1.2を掛けることになります。また、1基本電信要素時間はボーレートの逆数ですから、この場合1/50秒になります。

さて、電信の方形波形を確実に満たし、本当に高い品質の音声信号を得るために必要な最小の周波数を決定するために、以下の要素を考慮する必要があります。

ですから、ボーレートを単に7倍にします。

60 wpm の例の場合、これは 50 x  7 = 350 ヘルツの音声周波数が符号パルスの品質には最適であることを意味しています。このように、極めて高速の場合を除いて、一般的に400~1000ヘルツの範囲でビート周波数は問題が無いと言えます。
 

最小バンド幅は信号の安定度と了解度に関係します。バンド幅が狭すぎると信号が帯域外にドリフトしてしまい見失ってしまうかもしれません。逆に広すぎればランダムノイズと干渉信号の可能性が増加します。方形波入力に対するフィルターの立上がり立下り時間は短点長の約半分を超えないようにすべきです。6dB減衰点における最小バンド幅を計算すると、標準的英語の場合wpmに対し1.33倍以下にすべきで無いとでます。この値は信号の安定性の為に必要なバンド幅より十分低いので、通常のCW運用に支障はありません。
 

最後に、コピーした内容が意味をなさない場合、そしてそれを確認する方法が無い場合、第8章 「コピーすること」の最後を参照してください。

CWで5%以内の誤り率に求められる信号は両側波帯AM(DSB)に対し20dB低くてOKです。良いオペレータが15wpmのCWをサーマルノイズの中で受信するとき10%の符号誤り率に求められる信号対雑音比(S/N)は‐1dB、1%の誤り率なら+1dBといわれています。後者はDSB電話の場合に対して22dB低い。しかしながら、オペレータによるばらつきを考慮してDSBに対し17dBダウンとします。

従って、  CW  信号が 0 dBとすれば
SSB   は  +14 dB  (改善の余地有り)
DSB  +17 dB (オペレータによって5 dBのばらつき有り!)が必要ということです。
 

参考文献:電力相関とオペレータ要素[Power relationships and operator factor: (QST Fe 1967 p 46, US Army Rept)
 

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