William G.Pierpont N0HFF
-改訂2版-
第7章 「聞く」のか「読む」のか
コードを覚え、技術を上達させる最良の方法は、おそらく正しく送られてくるコードをよく聞いて頭に焼き付けることでしょう。
最も単純で簡単なことは、聞こえてくることに全神経を集中させ理解することです。すなわち気を散らさないことと、書き留めようとしないことです。私達が言葉を覚えたときもそうではなかったですか。小さな子供たちがどのように言葉を覚えるか見てご覧なさい。
「聞くこと」
だから、上達するためには聞いて、聞いて、聞きまくることです。アルファベットを覚えたら、機会を見ては正しく送られてくるコードに耳を傾けて下さい。これはそれほど集中しなくてもよいようなことをしているとき、例えば料理をしたり食事をしたりしているときにでも行って下さい。新しいものは何も必要ないですから。何度も繰り返して覚えるということを忘れないで下さい。よく親しんだ教材を繰り返し繰り返し、毎日毎日聞くことは、本当に役に立ちます。繰り返して聞き、そして注意を傾け、理解しようとして下さい。聞くときには、心を開き、受け入れやすい状態にして下さい。すなわち、送られてくるコードに集中するのです。予想したり、前に送られてきたコードをおぼえようとしたりしてはいけません。つまり、正しく送られてくるコードにリラックスした状態でちょっと耳を傾ける時間を、毎日少しずつでも取ることで、コードに慣れて下さい。
この聞くという行為は、次第に創造的で建設的な行為へと変化していきます。だいたいのことはすでにわかっていることで、何を言っているかがわかっているようなことであれば、何ら緊張することもな聞くことができます。コードの響きに慣れてくれば意味ある言葉として聞こえてくるものもどんどん増えていくでしょう。このように、同じものを繰り返し繰り返し建設的な方法で聞くこと、すなわち、送られてくるコードに耳を傾けるということは非常に身に付く方法なのです。ただし、上達してくると、新しい耳慣れない言葉も混ぜて聞くようにして下さい。この方法で練習すれば、新しい言葉も容易に聞き取れるようになるでしょう。自分自身で教材を作ることもできます。ARRLの会報や、質の良い交信を録音するのです。聖書の一節も良いでしょう。これらを、何度も何度も繰り返し聞いて下さい。
聞き始めの頃は特に、物事が進むのが非常に遅く感じられたり、すごく上達したように感じることもあるでしょう。また、どこかに寄り道をしてしまったり、すぐに結論を求めてしまったりすることもあるでしょう。聞くときには、ひとつひとつの文字や言葉、フレーズに集中して下さい。それはあたかもヒルのように言葉にしがみつくかのように。(何を言おうとしているかあらかじめわかっていることも、緊張しなくてよい練習法です。)
実際のコミニュケーションを思い出して下さい。ラジオを聴く時、音は聞こえては去っていき、録音されていなかったら再び聞こえることはないですよね。コードの響きに慣れてくれば、すぐに易しく感じるようになりますよ。簡単で親しみ深いということが、大事なのです。
初めのうちは自分が非常に上達したような気になるのですが、決して送り手を追い越すようなことはしてはいけません。つまり、何かを理解しようとして心が迷い出したり予期したり一時的に働かなくなったりしないようにしなければなりません。普通の会話や本を読んだりするときにはこのようなことがありますが、コード受信に関しては、特に注意する必要があります。モールス受信においてこのような習慣をつけてはなりません。聞くときには、意識的な分析課程のすべてを切り離し、そのかわりに熱心に聞き取ろうという心構えを保ち続けるのです。すなわち、文字、単語、フレーズをよく聞き、次に何が送られてこようとも、聞きつずけるのです。これは、送られてくる文字、単語、フレーズを注意深く聴き、次の単語を聞く準備をすることを意味します。繰り返し聞いて理解しようとしてください。この気持ちをどんどん高めていきましょう。聞いたことのすべてがわからなくても困惑することなどまったくありません。
「聞き漏らしても先へ進みましょう」
「鉛筆は捨てましょう!」
「集中」
船の通信技師を雇っている代理人で彼自身が生粋のCWオペレーターであるという人がいました。彼は、待合室のブザーと事務所の電鍵を接続し、就職口があるときにはいつも、モールスコードで期待できそうなリストの中から適当な名前を送るのでした。その人がすぐに答えなかったときには、その人をとばして、次の名前を送りました。彼は、すばらしい船の通信技師というのは、てきぱきとして、CWにすぐに応答できなければならないものだと考えていました。すばらしい、通信技師を獲得するおもしろい方法ではないですか。
「考えの塊としての単語を単語として聞くことを学ぶ」
符号のアルファベットに慣れてくると、じきに文字を楽々ととれるようになるでしょう。この時が、符号の列を意味の面から考え始めるよい時期なのです。つまり、文字の列ではなく、単語として聞き始めるのです。しかし、スピードが上がるにつれて、単語をスペルアウトする能力に限界がきます。そこで次に言葉を聞くことが目標になります。一つ一つの単語すなわち符号の集合を心のモニタースクリーンに写し出してください。これは、単語をもう一度学ばなければならないということを言っているのではなく、単に、単語に対するアプローチを視覚的なものから聴覚的なものに変えるだけでよいということを示しているのです。テキストや実際の交信を何度も聞いて単語の練習をしてください。このような練習をすることで、通常使われている単語に慣れることができるのです。
文字を心の中で一つ一つつづったり、覚えたりする能力にも限界があります。文字を一字一字聞いている限りは、何が送られているのかを理解するためには、ほとんどすべての文字を書き下さなければなりません。話をするようにコードを聞くためには、単語(word)を単語(word)として聞くようにしなければならないのです。つまり、コードを読みやすくもしくは会話体にすることであって、長短を問わず、文字の羅列としてとらえることではありません。これには、二段階あります。もしあなたが、普通に使われている単語(ワード)の少なくとも100語程度、単語として聞き、考えることができるのなら、第1段階は終了しています。単語(ワード)は言語を構成する単位ですから、コードや文字ではなく、知覚単位として単語(word)を聞き始める必要があるのです。(第三段階、これは専門家の領域ですが、単語(word)というよりも、考え(idea)もしくは文脈(content)として聞くことができるようになることです。)
どうやってものにするのか?意味に聞き耳をたてる
よく使われる短い単語については、その単語の響きとして忘れられないくらい心に刻み込まれるまで聞いて下さい。また、文字を見てわかるのと同じくらいたやすく単語として読むことを学ぶのです。最初は、よく使われる短い単語を繰り返し聞いて下さい。それが忘れられないくらい心に刻みこまれるまで、あたかも誰かがあなたに実際に話すかのように、そして、次に示すような有効だと思われる方法で長い単語(ワード)を伸ばして下さい。
「心のスクリーン」は、まさにタイプライターのようなものです。タイプライターや黒板を目に見えるようにして、その上に送られてくる単語を書き留めていくのです。また、スクリーンをゆっくりと横切る言葉のように。1つ1つの文字を心のモニタースクリーンもしくは黒板に写し出しましょう。そうして、見えるようにするのです。聞いたことを瞬間的に見えるようにするために、例えば、文字や数字が聞こえたら、わずかの時間で心のスクリーンに映し出すようにしてください。心の中にある黒板に書き留めるようにしましょう。こうすることによって、単語を形成するコードに集中できるようになるし、単語として見ることを学ぶことができるようになります。速いコードを聞くときは心を空っぽにしましょう。そうすれば、文字が飛び込んできますから。
「PHONICS」(読み上げ)によって、理解とスピードアップが容易で自然にできるようになるという人もいます。リラックスしてコードを聞くのです。そのときには単語の名前としてではなく単語のなかで発音されるものとして聞くのです。このようにです:Westという単語を聞いたときにははっきりと口に出して言うのです。「ウ、ウ、ウィ、ウィー、ウェス、ウェス、ウェスト」と。そして音により心の中に少しずつ単語を形成させるのです。このことにより音を聞くことがより容易になります。次から次ぎへと送られてくる単語を音として響きわたらせるのです。その作業は文節でとらえられ、最後には単語全体としてとらえられるまで行います。これらはトン・ツーのパターンを単語に直すことを意味ししています。
もちろん、このシステムは完全には機能しません。なぜならば、英語が完全な形では読み上げに対応した言語ではないからです。いくつかの単語は音にはなりません。たとえば、最後の「e」のように。音を聞いて言葉を理解するのと同じように、コードで聞いた単語を言葉にしていきましょう。よく使われる単語の組み合わせ(例:br,gl,ng�)や音節(com,ex,inter,ment,ig,tion�)などを練習することで、単語になれることが容易になるでしょう。この方法のように、単語を全体でとらえるということが、部分的なものしか聞こえないものを、意味ある単位として理解するという作業工程となるのです。これは、省略語を使うときにも生きてきます。この方法を試して下さい。そして自動的にできるように。単語を単語として聞くことができるようになれば、送り手の失敗や、聞いている中で聞き漏らした音も心の中で正すことができるようになります。
「適切な単語(ワード)の間隔」というものの重要性が明らかになってきました。この間が、今受信したばかりのコードの意味をくみ取るちょっとした瞬間となります。このような間を持った単語(ワード)というものは生き生きとした感じがします。次に示す練習は試してみる価値があります。あまり早くなく、また単語と単語の間が充分に長い単語が聞こえたらすぐに、大きな声で(または心の中で)叫んでみて下さい。おそらく、大きな声を出すのに要する間が取れるだけのもう少し長い間のある練習教材を作りたくなるに違いありません。(2,3個の数字からなるような短い数字のグループでこれを練習することも役に立つでしょう。)「ここから始めます」という前の沈黙、「これで終わります」といった後の間、そして残りの単語というものがどのようなものかに注目するのです。 こういうわけで、コードの響きに親近感を持つことが非常に役に立つのです。 単語は意味のある単位に変わっていきますし、受信した単語の意味もたやすく理解できるようになります。単語に親しみを持てば持つほどより簡単に受信できるようになるのです。また、緊張しなくてもよくなります。
あるハムがこのように言っています。「私の耳に入ってくるコードが単語として出ていく」。私達は個々のコードを文字として意識的にあるいは無意識のうちにそれを認識することを学んできたように、こんどは次のステップに進み、これらの文字を心に貯めて一まとめにし、意識して個々の文字を別個に聞いたりすることなく、単語(ワード)に変えます。私達は潜在意識でもって単語(ワード)を表現することを習得しなければなりません。 個々の文字を認識することに力を注いでいる間は、通常の心の機能に惑わされたり、注意が異なる方向に向けられることもあるでしょう。 目標は、話し言葉を聞いているかのように、コードを聞くことができるようになることです。最後には、話し言葉がそうであるように、音で意識が目覚めるようになります。そうなったときには、書き留めることも非常に簡単になるでしょう。
「上達するためにはより早いスピードで聞かなければなりません」
時には、いくつかの文字がわかるだけというぐらいの速いスピードで練習することも必要です。この種の聞き方をすることでどんどん上達していきます。 短い言葉であれば即座にわかるようになります。つまり、送信されるやいなや、その言葉の意味が分かるようになるのです。それも、意識して書き留めることをしなくてもです。このような練習を続けることが必要で、これをすることにより、どんな文章も受信できるような力が付くのです。 学ぶことには決まった形があるわけではなく、いつの日にか、他人よりも自分がうまくなるでしょう。しかし、このようなことで悩む必要はないのです。それが普通なのです。どんなスピードにおいても、このような瞬間は誰にでもあります。
数語からなる言葉を完全に理解することができるときや、ところどころ理解できないこともあるということに気づくでしょう。これらすべてが、学んでいく通常のプロセスなのです。 聞き続けましょう。送信される信号に集中して、なおもリラックスした状態で。まるで友達の話を聞いているときのように。間もなく、短い言葉だけでなく長い言葉も聞き取れるようになるでしょう。そして最後には、すべてを聞き取ることができるようになるでしょう。練習していくにしたがって、これまでは早すぎると感じていた信号が意味ある言葉や文章として自分の心にある目の前をゆっくりと通り過ぎていくように思えるようになったことに気づくと思います。35wpmを聞き取れることができる盲目のハムの受信練習の話には興味深いものがあります。彼は、ところどころ聞き漏らすのですが55wpmで練習していますといったのには驚きました。
「消えた単語、長い単語、最後が途切れた単語、とぎれがちな単語」
聞いたとおりにきちんと受信できるようになると、奇妙な現象が起こることがあります。それは、よく知らない短い単語や、長い単語の最初の部分を聞いたときに、その単語の意味を考えるのに一瞬、とまどうことがあるのです。そのことによって、続いて送られてくる数語を聞き逃したりします。特に、長い単語が次に続く場合にはよくあります。また、長い単語の最初の数語を聞いて、もう一度、最初の単語のことを考えることもあります。そうすると、中間の数語を聞き逃してしまい、また、それを何とか理解しようとするために、結局、全部聞き取れなかったということにもなります。
これを防ぐ方法はあるのでしょうか。最初の一部分が聞き取れなかったことによって、結果的に残りの部分も聞くことをやめてしまうようなことにならないようにしなけらばなりません。これをどのように防げばよいのでしょうか。間違った単語(綴りを間違えた単語)や、言葉ではないコードが送られてきたり、文章が省かれていたりすると、同じように混乱してしまいます。これは、読む場合で言えばミスプリントに相当します。このようなとき、ミスプリントや間違った言葉を読み飛ばしたりあるいは、ほとんど気にとめなかったりすることはよくあることですよね。どのように行っていますか。文章の中で理解しているからではないですか。このようなことは電信においてできないものなのでしょうか。少々単語や文章がが間違っていたり、抜けていたりしても、正しく直すことはできないのでしょうか。たとえば、間違っていたり、余分な音に対してはできます。この場合には、心の中で訂正しているのです。前に強調したように、前進し、聞き続けなければなりません。もしこの時点において、わかろうとすることを止めたら、私達の注意は受信から分析に向けられるでしょう。また、理解しようとしながら行う受信も完全に中断してしまうでしょう。作業を進めて行くにつれて、謎が解けていくということにしばしば起こることです。
送信される信号の意味を理解しようと苦労しないで、集中しなければなりません。理解しようとすると、自然の心の働きを妨げてしまいます。心配も伴います。すなわち、文章が終わるまでに最初の部分を忘れてしまうのではないか、あるいは初めの部分が特殊で耳慣れない言葉(技術的な言葉であったり、医学用語)ではないか、また、まったく理解できないのではないかといった心配です。多くの言葉に関して、接頭語や接尾語になれることは非常に役に立つことです。これらに慣れることにより、別々の文字としてではなく、一つの塊として聞こえてくるようになります。受信していることよりもさらに先のことに意識を持っていかないということも大切なことです。
「交信を実際に聞く」
交信を聞くとき、雑音、フェーディングおよび混信によってなかなかうまく聞き取れないことがあります。このようなときは、いいかげんに送られてくる信号よりもきちんと送られてくる信号の方が聞き取りやすく感じます。しかし、受信機の機能のおかげで、きちんと同調させたり、聞き取りやすくすることも可能となります。例えば、
RFフィルターを使用したり、IFアンプでチューニングしたりするのです。こうすることによって、信号が浮かび上がって聞こえたり、雑音が少なくなります。雑音や、不規則で信号ではない電気的な雑音は、
RFゲインを下げたり、AFゲインを上げたりすることで減少させることができることはしばしば経験することで、結果的に信号を浮かび上がらせることができます。また、ヘッドホンを使えば、お互い位相をずらすことができるために、頭の中で消し去ることのできる雑音もあります。Dual-diversity受信を行えば、効果的にフェーディングを消すことができますが、装備を大きく変更しなければなりません。すなわち、独立したアンテナと2つのRFフロントエンドが必要となります。耳というものは、混信(雑音や他の妨害となるもの)の中でもCW信号を非常にうまく聞き分けることができるのです。これは、今日使用できる装置の中でも、最も優れたものです。
私達は聞きたいひとつの信号に集中することで、妨害となるものを最小限に抑えるように耳を鍛えることができます。二つの信号が異なるものである限り、音程や音質の違いで両者を聞き分けることができるのです。また、送り手のスピードやスタイルの違いが聞き分ける際に多いに役に立つというのも事実です。さらに、強力な雑音の中でも、信じられないくらい弱い信号が聞き取れるように耳を鍛えることができます。これら多くの妨害があるにもかかわらず、ほとんど100%聞き取ることのできるオペレーターもいるのです。
暗いところで聞いたり、目を閉じて聞けば、混信や妨害の中でも信号により集中できるということもわかってきました。それをやってみたくなるでしょう。そして、技術を上達させるのに役立つかどうかもわかるでしょう。最後に、ときには書き留めることで集中できることもあるということも付け加えておきます。
熟練した電信技師というものは、何をやっていようとも、信号が何を言おうとしているのかをたやすく聞くことができるのです。